第1章-先を視る- 6話
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「どうして…?何でなの…?!」
不安を振り払う様に頭を振って、非常階段を降りる。
さっき、確実に私と目を合わせていた。それに千里眼の能力を持っている事もバレている。
ーーー流儀光は、本当に人間なのだろうか。
「…馬鹿みたい」
この世に吸血鬼や悪魔なんて絶対存在しないのに。
「怖くなって降りてきたか?」
暗い駐車場の中。その入り口付近から、少年の様に透き通った声が響く。
ーーー流儀光の声だ。
もう追いつくとは思わなかったのに。止めてある車に身を隠して、千里眼で彼を視る。
流儀は、駐車場の入り口からゆっくりとこちらに向かってきていた。
欠陥したと思われる右腕は、コートを羽織っているから見えない。左手には包丁を持っていた。
馬鹿な人だ。千里眼で解ってしまうのに、もう武器を見せてしまうなんて。
「隠れてないで出てきたらどうだ」
「そんな事を言われて、素直に姿を見せる人が居るとでも?」
「なら、少し強引な手を使うよ」
その言葉を最後に、彼は駐車場の中を走る。
この駐車場には十個の爆弾が仕掛けられている。
考え無しに走れば、すぐ爆発してしまうのだ。
ーーー彼に、逃げ場はない。
自然と口角が上がる。
流儀が爆弾が仕掛けてある車へと差し掛かった瞬間、彼は瞬く間に爆風に包み込まれていく。
ーーー勝った。私の勝利だ。
車の影から身体を出して、起爆現場へと足を進める。
辺りには焼けた車。それからガラスの破片。ただそれだけ。
「それだけ…?」
後ろから爆発が起こったのは、私がそう呟いた瞬間だった。
素早く振り向くと、辺りを漂う灰色の煙の中から飛び出してきた黒いモノが見えた。右手に包丁を構えているソレは、私の方へ一直線に向かってきてーーーーー