第1章-先を視る- 3話
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「ストーカーに遭ってる?お前が?」
受話器の向こうから馬鹿にするような笑い声が聞こえて、僕は頭痛を覚えた。
「…笑うなよ、昭。本当なんだ。毎日決まった時間に電話がかかってきたり、メールが届いたり…本当に困っているんだから」
「ふぅん。お前に熱烈なファンがいるなんてびっくりしたよ。良かったじゃないか」
冗談なのか本当なのかわからない事を言って、昭はまた笑う。
…嫌な奴だが、敬凪昭とはイギリスで暮らしてた頃からの友人だ。
まあ友人といっても、イギリスには日本人が少ないから、彼と一緒にいたってだけ。
だが、今は友人同士楽しい話をしているというわけではない。昭は能力者や呪いを研究している、言わば研究者って奴だ。
その研究者に、少し能力者について教えてもらっているって事。
「ただのストーカーならまだ良いんだけどさ…彼女は一般人ではなくて、邪視系の能力者だと思うんだ」
「へぇ。そりゃあ、また何で」
「僕が考えた理由じゃないけど、未紗…いや、助手が言ってた。ウチの助手は能力者とか吸血鬼とか、人間じゃないモノがわかるらしいんだ。そういう能力ってあるのか?」
「うーん…似てる能力なら。透視っていうやつが」
透視。テレビでよくやるマジックで使われたりするアレか?けれど、それって人の臓器とか、箱の中の物が見えるってだけじゃ?
などと考え込んでいると、受話器の向こうから昭の声が聞こえてきた。
「もしもし、光?…一人で考え込むのはお前の悪い癖だ」
「ごめん。それで透視っていうのは?」
「お前もテレビで観た事あると思うけど、箱の中身を当てるとかトランプの絵がわかるとか、そういう風に使える。でもそれだけじゃない。心を読むことだって出来るんだ。まあ助手さんが箱の中身を当てる事が不可能なんだとしたら、透視ではないけど……あ!ひょっとしたら新種の能力だったり」
そしたら研究が必要だ!と一人盛り上がっている昭に、僕はまた頭痛を覚えた。
「そうだった。ストーカーの能力だったよな。ストーカーが使いそうな邪視系の能力って言ったら…千里眼がある。千里眼って透視の一瞬でもあるんだけど、千里眼を使える奴は他の透視能力が使えないんだ。希少な能力だよ」
「遠くを視る能力か。確かにストーカーにはぴったりかもしれない。ありがとう、昭」
「良いさ。…あ、どうしてもお礼がしたいっていうなら、君の助手さんの能力を調べ…」
まだ喋り続けている昭に構わず、僕はすぐに受話器を置いた。
彼の研究能力は評価に値するけれど、研究にのめり込み過ぎるのは悪いところだ。
さて、どうにかして能力者のストーカー行為をやめさせないと。
「…それにしても、千里眼か。厄介な能力だな」