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第1章-先を視る- 2話
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その夜、僕は廃ビルへと向かった。
壁を這うツタ、地面に散らばるゴミ、ますます老朽化が進んでいるが、まだ壊れる事はなさそうだ。
錆び付いた屋上の扉を開けると、真正面には煌々と輝く月が見えた。
月といえば、三年前のあの日。あいつが立ち去ってから一時間程して、吸血鬼化の症状はぴたりと止まった。
まあ、止まっただけで戻りはしないから、吸血鬼の能力を使えば目は赤くなってしまうし、日光に当たる事は出来るけど嫌いだし、怪我したって一分程で元通りだ。
老化が遅い事は喜んで良いのか微妙だが、とにかく三年前とはあまり変わっていない。
夜風に当たりながら月を見ていると、後ろから人影が近づいてくるのがわかった。
ゆっくりとした足音は、僕の丁度真後ろで止まった。
「ーーーもうすぐ、貴方は死ぬ事になるわ」
高く、けれども凛とした声が聞こえて、僕は後ろを振り返る。
そこに人影はない。その代わりとでもいうのか、一輪の黒薔薇が地面に落ちていた。