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プロローグ 2話
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深夜を迎えた都会の喧騒。それを音楽の様に聞き流しながら、上下月は喧騒から離れた廃ビルへと足を進める。
別に散歩をしている訳ではないし、廃ビルマニアという訳でもない。
ただ、ある『獲物』を追ってきただけだ。
「………」
ビル内は静寂に包まれている。響くのは彼のゆっくりとした足音のみ。
まるで見物客の様に、月はじっくりとビル内を見回す。
上下右左ーーー隅々まで『視』てから、廃ビルの屋上へと向かう。
屋上は月明かりに照らさせていて、内部より明るい。都会の喧騒も、途切れ途切れに聞こえてくる。
そんな場所に、フードを深くかぶった少年と幼い子供が居た。
少年は包丁を持っていて、子供は気絶している。この状況に出くわしたら、誰だって焦るだろう。警察に連絡する人間も居るかもしれない。
だが、上下月は焦る事も、警察に連絡する事もしなかった。
ただ、少年に一言だけ告げた。
「お前、殺人者になるつもりか」






