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三題小説  作者: 登美川ステファニイ
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「近未来の風」 近未来、女子高生、シャッター街

 商店街の真ん中で、機械仕掛けの大時計が時を刻んでいる。

 大理石の台の上にガラスの円筒が立ち、その中の歯車や色々な仕掛けが見えるようになっている。でも、今はもう時計以外の部分は動かない。十年前、私が幼稚園児だったころに作られたものだが、壊れて、直すお金も直せる人もいないから、そのままになっている。

 十年前の、この時計ができた時に、母と父と一緒に並んで見た記憶がある。真新しい時計。円筒のガラスの中で、星のような、宇宙船のような、あるいは風の流れのような様々なモチーフの部品が、滑るように動き回り、電球が瞬いていた。

 それは今見れば子供っぽい、陳腐なものだったかもしれないけれど、その時の私にはものすごいものに思えた。一か月くらいは、毎日のように父にせがんで見に行っていたらしい。

 大時計は今、誰にも手入れされず、うっすらと錆び始め、ガラスも曇ってくすんできている。一番上の時計だけは今も動いていて、秒針が元気に動いている。けれどそれは、この時計の本質ではない。

 昨日、この時計を作った人が死んだ。商店街の時計屋のおじいさんで、もう何年も前から寝たきりで、病院で肺炎で死んだそうだ。

 十年前に商店街の町興しの一環で、趣味だったからくり時計の技術を奮い、この時計を作った。デザインは当時の小学生や中学生から公募したものを基にしているから、この人だけが作ったわけではない。けれども、時計の台に花が供えられているから、きっとこの時計はあのおじいさんのものなんだろう。少なくとも、この花を供えた人にとってはそうだったのだ。

 台に埋め込まれたプレートには近未来の風と書いてあった。この時計が宇宙っぽいのは近未来を示していたらしい。その名も、今日初めて知った。子供っぽいと思うけれど、この大時計にはぴったりの名前に思えた。

 この商店街は死のうとしている。シャッター街になりつつあり、おじいさんの時計屋もシャッターが下りていて、もう開くことはないのだろう。

 おじいさんが死んで、私が女子高生になって、幼かった私にとっての近未来が訪れている。風は吹いているのだろうか。分からないけれど、この時計は時を刻み続けている。

 私がこの大時計の事を気にしなくなっていた間も、この時計は動き続けていた。そしてこれからも、時を刻み続ける。

 一秒を。

 一分を。

 一時間を。

 一日を。

 左腕の時計と大時計を重ねる。秒針が同じ速度で動く。私の時間。おじいさんの時間。この商店街の時間。そして、誰かの時間。

 遠くに声が聞こえる。ベビーカーを引く女性と、子供と手を繋いだ男の人。

 あの子供は、十年後にこの大時計の事を思い出すだろうか。あの子に訪れる近未来に、この大時計は存在しているだろうか。

 きっと存在していないだろう。この商店街さえ、消えてなくなっているかもしれない。

 それでも時は刻まれる。

 一秒が。

 一分が。

 一時間が。

 一日が。

 大時計がなくなっても、私の時計は時を刻む。

 商店街がなくなっても、あの子供は別の場所で笑うだろう。

 くすんだガラスを、私はそっと撫でた。


1000字に収まらなかった。そして女子高生っぽさがなかった。寂しげな雰囲気は好きです。

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