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34話「とある金曜日」

 学校に行くよりも部屋でゲームやラノベを嗜み、それをネタに妄想しながら床につく。それが今までの俺の日課であった。

 

 その妄想が今や現実となっている。

 ヒキニートだと、妹にバカにされ続けていた俺であったが、今や。

 魔王を倒し、邪神と融和し、魔城温泉の社長になったのだ。

 

 ほんの一カ月ほどの月日で、これだけの事をやり遂げた。

 これだけは、アリスに感謝しなければな。


 そして俺は今、厨房へと足を運んでいる。

 白のワンピースの上にシェフのようなエプロンをかけ、包丁を握りマナ板をトントントンと叩く、ンンの姿は真剣そのものだ。

 振り向けば笑顔。食材に向かえば一心不乱に調理に没頭する。

 その姿は魔城温泉の料理長として申し分ない。


「あ、ご主人様なのん」


 俺の姿を視界に捉えたンンが、笑顔でそう呟いた。

 すると、ンンは焼きたてのクッキーを俺に差し出した。

 うん。味は悪くない。これならお客さんにも好評だろう。


「これから、ちょいとハーベスト村に顔を出すけど、不足してる調理器具とかないかい?」

「今のところは特にないのですのん」


 そんな取りとめのない会話を済ました俺は、これからハーベスト村の村長宅へと、お邪魔する。

 なんでもニャムが以前言っていた、狼が出没し、村の狩人達も恐れて近づけないとのことだった。

 それはそれで、狩人達にとっては、かなり深刻な話である。

 森に入れないとなると、仕事にもならず収入源も途絶えてしまう。

 村人の陳情に頭を痛めている村長さんは、俺に相談したいとのことなので、これから向かうところなのだ。


 村の狩人達やニャムが震えるほどの狼。

 どれほどのものなのだろうか、と、考えながら吊橋を歩いてると、後方より声をかけられた。

 振り向くと魔女っ子の衣装を纏ったマリリンがいた。


「ハジメ氏、何処かに向かわれるのですか?」

「ああ、ちょいと村長宅にいってくるよ」

「でしたら我も、ご同行してよろしいですか?」

「でも、マリリンは今日は休みだろ? 無理しなくていいんだぞ」

「鳴かぬなら鳴かせてみせよ、ホトトギスなのであります」

「はい?」

「我は暇なのであります!」


 ハーベスト村までの道のりは30分ほど。

 のどかな草原で、魔物と言ってもスライムが飛び跳ねているぐらいである。

 その間、マリリンは終始笑顔で、ウキウキしている。


「ハジメ氏の世界に我も行ってみたいのです!」

「俺も皆を招待できたら、楽しいと思うけど、アリスのテレポートは俺しか運べない残念仕様だからなぁ……」

「我もアリス氏が言っていた、ハジメ氏の母上の手作りハンバーグとやらを食べてみたいのです」

「だったら、俺で良ければハンバーグぐらい作ってやるよ」

「本当でございますか!」


 深く考えもしないで発した言葉にマリリンは、とても喜んでくれている。

 

「そういやマリリンって数千年も、あのダンジョンで、邪神を見張ってたんだろ? その間、何食ってたんだ?」

「何も食べてないですよ?」


 ごく当たり前のように言う。


「数千年だろ? 普通に考えりゃ……死ぬよな?」

「眠り魔法で寝てる間は、何も食べなくても平気なんですよ」

「つーても、数千年間、ずっと眠りっぱなしじゃないだろ? そもそも邪神復活を見張ってたんだろ? 寝っぱなしじゃ意味ないよな……」


 するとマリリンは少し俯くと、「夢を食べるんです」と、恥ずかしそうに呟いた。


「夢?」

「はい、誰かの夢に出てくる、ご飯を食べてたんです……」

「それって……うまいの?」

「メニューによります。あ、ハジメ氏っ! このことは誰にも言わないでください。我とハジメ氏、二人だけの秘密なのであります」


 そう言ってマリリンは、上目遣いで俺を見据えると頬を染める。

 どうして、そんなに恥ずかしそうにしてるのだろうか。

 数千年も生きてるロリババアのはずなのに、妹のユイより可愛げで幼い。

 

「ハジメ氏。ハーベスト村が見えましたよ」


 他人の夢の中のご飯を食べることって、そんなに恥ずかしいのかと、尋ねる間もなくハーベスト村に着いてしまった。


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