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22話「告白」

「だってしょうがないだろ? アリスは回復魔法だけだし、マリリンは眠り魔法の他には初級の火魔法しか使えねぇって言うし、リシュアだって魔剣が放つ邪気によって、精霊召喚、最近はてんで上手くいかないんだろ? 国外に行けば制限もクソもないじゃないか」

「でも、ハジメ旅費はどうするの?」

「そこはアリスのテレポートで一瞬だろ?」

「うーん」

「何考え込んでんだ? まさか神様に封印されたとか、能力消失したとか、ありがちなこと言わないよな?」

「違うよ。テレポートは契約してるハジメしか運べないんだよ」

「な、なるほど。そうなのか」


 状況を飲みこんだリシュアとマリリンが、遠慮して馬車で移動すると言いだした。


「旅は道連れって言うだろ? 俺達は仲間なんだし、ここは全員馬車で移動しようぜ!」

「そう言って頂けると我は嬉しいです。ハジメ氏がいないと我はろくに、戦えませぬゆえ」

「あたしも下級の精霊しか使役できぬ今、正直な話、不安であった」

「アリスもみんなと行動する方が楽しいよ」


 全員の意見がまとまった。


「んじゃ、決定だなっ! ……で、アリス。マジでテレポートが使えなくなったとかじゃないんだよな?」

「帰れなくなっても未攻略のエロゲーと、読みかけのラノベしかない癖に……」

「ぬぬぬ……ユイのやつ……俺のニヒルでクールで仲間思いのイメージが、崩壊しつつあるじゃないか!」

「ハジメ氏の世界って面白そうですね」

「うんうん。ハンバーグがとっても美味しいんだよ。とってもジューシでほくほくなんだ」

「ほー。ハンバーグとは食べ物ですか? どんなものなのでしょう」


 アリスがマリリンに質問に対して、俺に答えろと視線を飛ばしてきた。

 いつも腹減ったと、ボヤいてばかりいるマリリンには興味深い話なんだろうな。


「素材は肉なんだけど、それをミンチにして小麦やパン粉などをまぶして、こんがりと焼いたものだよ。後は好みに応じた様々なソースをかければ出来上がりかな」

「お肉料理でしたか、我も食べてみたいですね」

「そういやこの世界って、どうやって肉を仕入れるんだ? 魔物退治しても魔結晶になちゃうだろ?」


 俺の素朴な疑問にマリリンが答えてくれた。


「魔素に毒されてない生きものなら、魔結晶にはならないのですよハジメ氏」

「なるほど、動物と魔物は別物なんだな」

「動物が魔素を取り込むこともありますが、それは稀でございますよ」


 話の区切りのいいところでリシュアが身を乗り出す。


「……で、ハジメ殿。どこに向かうのだ?」

「まずはハーベスト村に向かおう」

「ハーベストは最南端の辺境の村。そこなら一歩踏み出せば国外だ。しかしハーベスト村には冒険者ギルドの支部もないぞ? その先どうやって稼ぐのだ?」

 

 リシュアの疑問はもっともだ。

 だが俺はしばらく冒険者ギルドに頼るのは、やめにすることにしていた。

 いずれにしろ今の制限された戦力じゃ、ゴブリン退治が関の山だろう。


 ならば今夜の宿代を旅費に回すか。


「よし、みんな決めたぞ。これからハーベスト村に向かおう」

 



 ◇◇◇




 ハーベスト村。

 俺とアリスが初めて降り立った、魔城付近の草原にある小さな村である。


「残った金で買えるだけ食料を買い込もうぜ。どうせもう宿代なんて吹っ飛んでるだろ?」

「ハジメはいいよね。野宿でも15分で済むんだから」


 隣にいるアリスの両手には、買いだめした手提げ袋がぶら下がっている。


「たしかにハジメ氏の昼寝スキルは羨ましいです」

「あたしは野宿には慣れてるが、アリスとマリリンはどうなんだ?」


 リシュアの問いに二人は正直だ。


「我はふかふかのベットじゃないと眠れませぬ」

「アリスは女神だよ? 女神が野宿なんてありえないよ」


 全員が肉やら野菜やら果物やらを手提げ袋を提げているのを見て、俺は満足そうに笑みを漏らした。


「まあ、心配するな。俺は一応パーティリーダーだろ? 寝床はちゃんと考えてある。野宿なんてさせねーよ」


 俺の言葉にリシュアは顔をしかめ沈黙したが、アリスとマリリンは荷物の重みを忘れたかのように俺の言葉に食いついた。


「ハジメ殿……ヘンに期待されても……たしかにあたしが住んでいた森はこの付近ではあるが、雨風がしのげる程度の樹の上の小屋だ」


 リシュアの言葉にアリスとマリリンはシラケタのか、肩を落とした。


「あ、でも野宿よりはいいよね?」

「そうなのです。ふかふかとまでいかなくとも、柔らかい寝床があれば満足なのです。最悪、ハジメ氏が我のひざ枕になってくれればいいのです」


 マリリンの言葉の語尾にアリスが反応した。


「ひざまくら?」

「はい、そうなのです」

「マリリンってハジメのこと……?」

「好きなのですっ!」

「でも、ハジメはアリスの勇者だよ? 契約だってすましてるんだよ?」

「我は過去にはこだわりません! いえ、そんな穢れた契約など我の眠り魔法で地の底に封印してごらんにいれましょう」


 しだいにアリスの表情が不機嫌になる。

 なんだか溜息しかでねぇな……。

 アリスとマリリンの熱い視線が俺を捉えた。


 にへ。


 エロゲーでの恋愛経験しかないこの俺にどうしろと。

 対処する知恵など咄嗟に思い浮かぶはずもなく、にへらと笑みをこぼす。

 俺はリシュアに助け舟を求めたのだが、何故だかリシュアも様子がおかしい。

 

「ハジメ殿、人間とエルフの間に生まれる子供はハーフエルフと申すのだ」


 リシュアの迷言に俺は絶句した。

 

「リシュア、今なんて言った? 子供がなんだって?」


 アリスとマリリンがリシュアの言動に噛みついた。


「リシュア氏がとんでもないことを申されました。もはや予断をゆるしません! 太古より眠り姫たる乙女よ。我との盟約に応じこの者たちを永遠なる夢見の時に封印せよ! 究極眠り魔法アルティメットスリープ!!!」

「バ、バカッ! なに詠唱してんだ!」


 ――――あ、いや……これでよかったのかもしれない。


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