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第七話

久し振りの投稿です。

「さすが、と言ったところですか。正解です。普通こちらの世界の人間はその考えに至っても、こちらの常識に縛られているせいで簡単に信じることは出来ないんですがね」


 手を叩きながら切原を賞賛するピエロ。

 顔は仮面で隠れているし、口調は演技くさく、やはり何を考えているのか読めない。本当に関心しているか楽しんでいるのか――それとも何も感じていないのか。


「まぁ、中には何でも実際に見たものは受け入れるタイプの人間もいるみたいですが、貴方は違うでしょう。切原くん、貴方は間違いなく異常だ。人間かどうか疑わしくなるほどに。――そして彼も」


 ピエロは拍手をやめると、次に氷室の方を向く。

 目線を向けられた本人はピエロのことを一切気にせず、そろそろ限界が近い切原を見下ろす。


「質量がないのに痛みを感じる? そんな魔法みたいなものが現実に存在するわけないだろ。もっと分かりやすく論理的に説明しろ」


 その目は全く切原のことを心配していない。一般的な感覚の持ち主なら死にそうな人間を見て何も感じないというのは有り得ない。さっきの切原の軽口ではないが、現代の平和な日本に住む人間なら尚更だ。


 まるでゲームをプレイしているかのように見える。ゲームの中で死にそうなキャラを見ても心配する奴はいないからな。

 だからと言って氷室が現実とゲームを混同するタイプには見えない(会ったばかりで直接話したことはないから自信はないけど)。

 ……これは確かにピエロの言う通り異常だ。狂っている。


 でも人間かどうか疑わしいというのはどうだろう? 切原も同様だが人間を逸脱する程だとは思えない。

 ピエロには俺が見えている以上のことが分かっているのか? ……それとも俺の感覚がおかしいのか?


「いや……ごめん。もう、無理……」


 それだけ言い残すと切原はうつ伏せの状態で動かなくなった。

 それを見たピエロがみたび指をならすと切原に刺さっていた剣が跡形もなく姿を消し、そして次の瞬間には天井の元々切原に突き刺さっていた剣があった場所に新たに剣が補充された。

 消えた剣が移動したのか、別の剣が出現したのかは分からない。だが、どっちにしろ厄介なのは同じだ。

 何故ならピエロがいくら剣を使っても数が減らないということなのだから。これでは剣をどうにかして逃げるということが出来ない。いや、これだけあったら数本減ったところで何も変わらないか。


「これ以上、こいつと会話するだけ無駄そうだな……」


 演技ではなく本当に切原が限界だと理解した氷室は一瞬で思考を切り替えてピエロに視線を向ける。ここまで自分のことしか考えていないと逆に感心してしまうな……。

 ……って、今は氷室より切原だ! 今度こそ死んでないよな!?


「…………」


 う~ん、大丈夫……なのか? 微妙なところだ。

 見たところ悶えていないから剣が消えたことで痛みも消えたように見えるが、まだ体を動かすことは出来ないみたいだ。

 早く病院に連れていかないと駄目そうにも見えるが、何故か切原なら大丈夫な気がする。


 それにしても誰も切原を心配する様子がないな。薄情な連中だ。

 ……まぁ、俺も人のことは言えないか。別に全く心配していないということはないが、本気で心配していたかと言うとそうでもない。目の前の理解できない出来事に驚いていただけだ。


 そんなことを考えていると神山さんが小動物みたいな可愛らしい女の子の目を塞いでいた手を離すのが見えた。今の教育に悪いショッキングな絵を見せないようにしてたのか。……過保護なのか? よく分からないが。

 この二人って知り合いみたいだが、どういう関係なんだ? 少なくとも学校で喋っているところを見たことはないが。気になる。


 ……そういや宮城の奴が神山さんは百合だとかみたいなことを冗談で言っていたが(冗談だよな? いまいち自信はないが)、本当にそういうことだったりするのだろうか?

 具体的な理由があるわけではないが、神山さんの普段と違う姿を見ると思わず勘繰ってしまう。俺としては違うと願いたいが。


「説明する予定だった切原くんが倒れてしまいましたので、代わりに不肖私めが説明させていただきます」


 ピエロは氷室の視線を無視する形で胸に手を当てながら言うと、説明を開始する前に倒れている切原に視線をやる。


「あ、まだ意識はあるようですし、切原くんもちゃんと聞いておいてくださいね。さすがに切原くんも全てが分かっているわけではないでしょうから。……さて、では説明を――」


「それよりも切原の治療が先じゃないですかね?」


 ピエロが説明を始めようとしたところで、次は俺が口を挟んだ。正直、俺らしくない行動だがこれだけは言わずにはいられなかった。

 この場面でも邪魔されるのが予想外だったのか、俺が口を挟んだのが意外だったのかピエロは不思議そうに首を傾げる。


「……はい?」


「隣に苦しんでいる奴がいたら話に集中できないんですが」


 アニメとかラノベだとツンデレに聞こえそうな台詞だが、これは真実だ。というより近くで人が倒れていて気にならない方がおかしい。

 ついでに言うと一人を除いて無表情だったりニヤニヤしていたり、切原のことが目に入っていないかのようにピエロの話を聞こうとしている周りの連中はおかしい。


「……ふぅーん」


「……?」


 ……何だ、今ピエロから妙な違和感を感じたんだが。俺を観察しているわけではないみたいだし、どういうことだ?

 何か引っ掛かることでも言ったか?


「ご安心ください。切原くんに関しては後で治しますので」


 変な言い方だな。まるですぐに治せると言っているように聞こえる。

 ていうか早く治療しろ、と思うがそうしない理由は容易に想像がつく。また邪魔されないためだな。これに関しては気にはなるが仕方ないか。話が進まないのも困るし、何より人死が出ないならそれで良い。

 俺が黙ったのを見てピエロは今度こそ説明を開始した。


「見ての通りわたくしは道化師ですが、実は同時に魔法使いでもあるのです」

七話終了しました。


では感想待ってます。

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