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第五話

「今のは望月彩菜だね」


 俺がどう対応していいか分からず寝ていた美少女から離れたところで、切原がそう言った。

 俺から質問わけでもないのに、勝手に近付いていきなり説明してきたんだが。しかも妙に嬉しそうだし。いきなりどうしたんだ、こいつ。

 いや、切原は最初からおかしくかったけど。


「知り合いか?」


「……え? 君、知らないの?」


 まるで信じられないといった表情をする切原。

 あの女って有名人か何かなのか?


「最近、売り出し中の人気アイドルだよ」


「アイドル?」


 ああ、なるほど。どこかで見たような気がしていたが、そういうことだったのか。

 そう言えば昨日の夜に見たバラエティー番組でドラマの番宣をしていたな。テレビではメイクをしているせいか印象が少し違ってすぐには気付かなかった。


「そう! 妹キャラをウリにしていて、男性のみならず女性にも人気があり今、最も勢いのあるアイドルの一人なんだよ! 可愛い妹は全世界共通の正義という言葉を体現するかのようにデビュー当初から大人気でファンクラブの人数もいきなり一万越え! 今も続々と増えていて、もちろん俺もファンクラブに入会している!」


 いきなり熱く語り出した切原。別にアイドルオタクを馬鹿にするつもりはないが、本気すぎて怖い……。

 後、『可愛い妹は全世界共通の正義』なんて言葉はない。……まぁ、理解できないことはないけど。俺もアニメとかの妹キャラは大好きだし。


 それにしても妹キャラか。さっき俺をお兄ちゃんと呼んだのは別に生き別れの妹とかではなく、そういう理由だったわけね。

 仕事でもないプライベート――しかも、こんな意味の分からない状況でもキャラを貫くのか。これがプロ根性……。凄いな。


「今年から高校生なんだよな……。あれが制服か。確かあの制服は――」


 まだ語るつもりなのかよ。面倒臭いし、適当に聞き流すか。


「はいはい! 皆さん、注目! わたくしの話を聞いてください!」


 まるで小学校の先生みたいに手を叩きながらピエロが俺達に注意を促す。騒いでいるのは切原だけなんだがな。

 丸投げしようと周りに視線をやると、全員が一斉に目を逸らした(正確には中学生ぐらいの女の子はどうしたらいいか迷っていた様子だったが、神山さんによって目を逸らさせられた)。……え? もしかして俺がこいつを止めるの?

 はぁー、面倒臭いけど仕方ない……。

 このままでは話が進まないので、とりあえず俺は切原に落ち着くように言うことにした。







「――では、そろそろ説明を始めさせていただきます!」


 やっと切原が落ち着いて皆が話を聞く態勢になったところで、ピエロが両手を大きく上に上げ芝居がかった態度で言う。

 最初から今の感じでやられていたら、不気味な見た目と相まって未知の状況に対する混乱やら恐怖でこの場の空気を完全に支配されていただろう。

 だが切原から始めるやり取りのせいで、今さら格好つけられても滑稽に見えるだけだ。全員がピエロに何とも言えない微妙な視線を送っている。


「そう言いたいところだったんですが、今の雰囲気で開始しても盛り上がりに欠けますね。それは場を自分の出来る最高の演出で盛り上け支配し、人を楽しませるエンターテイナーとしては屈辱的なこと」


 ですから、と続けピエロはパチンッと指を鳴らす。

 すると――


「あまり好きな方法ではないですが、力ずくで雰囲気をリセットさせてもらいます」


「なっ……!?」


 体育館の天井を覆いつくすかのように大量の剣が俺達の頭上に現れた。デザインは西洋剣に似ていて、切っ先が全て俺達の方に向いている。

 いやいや、ちょっと待て! これって本物か!? だとしたら洒落にならないぞ! いや、偽物でも充分にマズイ!

 もし紙とかだったら別だが、そうは見えない。

 現実感のない光景なのに何故だか脳がハッキリ認識している。――これは現実だと。


 ていうか、それ以前にどこから現れたんだ!? これだけの量を隠していたとは思えないし、何よりピエロが指を鳴らすと同時に何もない空間から突然出現した。

 どんなトリックを使えば、こんなことが出来るのか想像も出来ない。


「おー、すげぇ! これって本物か!? ……本物だよな!? どうやってこの数を一瞬で同時に出現させたんだ!? 油断していなかったのに、この俺が全く理解できなかった! 体育館に来た瞬間から期待はしていたけど、これは本格的に面白そうだ! なぁ、ピエロ! 今のってどうやったんだ!? 」


 まるで人が変わったようにハイテンションになって、オモチャを買ってもらった子供以上に目を輝かせながら天井を見つめる切原。しかも興奮しているからか形だけの敬語も忘れている。


 ――一体どういう神経をしているんだ、こいつは!? この光景をアニメか何かと勘違いしているんじゃねぇだろうな!?

 他の連中は大きく取り乱してこそいないが、冷や汗を流したり体を振るわせたりして、無数の刃に恐怖しているのが分かる。


「え~と、切原くん……でしたっけ? 本当、貴方は厄介ですね。面倒臭い。おかげで、わたくしの考えた台本が台無しです」


 明るく楽しそうな感じなのに、体の芯から冷えるようなこの世のものとは思えない声を発するピエロ。無数の刃の存在を忘れそうになるほどに怖い。

 仮面で顔が隠れているからどんな表情をしているかまでは分からないが怒っていることだけは分かる。


「これが本物かどうかですか? こちらの世界に『百聞は一見にしかず』という言葉があるように、わたくしが口で説明するよりも、実際に体験したみた方が納得できるでしょう」


 ピエロが再度、指を鳴らす。と、同時に大量の剣のうちの数本が切原の体に向かって放たれる。


「これが貴方の質問に対する答えです」


 そのまま剣は切原の真正面から体を貫き、切原は体育館の床に倒れた。

前回の話を投稿した後に気付いたんですが、最初に登場していた宮城の呼び方が分かりづらいですね。

宮城と書いて『みやぎ』ではなく『みやしろ』と呼びます。

他にも質問がある人は気軽にどうぞ。ネタバレにならない範囲で答えさせていただきます。

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