第四話
「……貴方、元気がいいですね。わたくしに何か質問でも?」
ピエロは口上を邪魔されたのがイラッとしたのか一瞬動きが固まったが、すぐに立て直して飄々とした態度で切原に対応する。
それに対して切原もピエロと同じように飄々とした態度で返事をする。
「その格好いい仮面はどこで買ったんですか?」
……それは今聞く必要があることなのか? ピエロの仮面なんか興味ないんだが。切原の真意が読めない。
何か今の質問に深い意味があるのか? ……いや、考え過ぎだな。ただの空気の読めない馬鹿なのだろう。
その証拠に態度には出していないが目が輝いている。
後、ピエロの仮面は悪趣味なだけで別に格好よくないだろ。
「それを聞いてどうするのです?」
「いやぁ、最高にイカしたデザインなんで僕も欲しくなりまして」
「そうですか……。これはわたくしの自作です。後で一つ差し上げましょうか?」
……最初はよく分からないなりにヤバいことが起きると思っていたのに、何でこいつらは和んでいるのだろう?
心無しかピエロも嬉しそうにしているように見えるし。そんなに仮面のことが誉められたのが嬉しいのか?
さっきまでの緊張感が台無しだ。
「あの私も一つ聞いていい?」
二人の会話を遮るように俺とは違う高校の制服を着た女子が口を開いた。
三年生だろうか? 目付きが鋭く大人びた雰囲気をしており容姿も非常に整っている。スタイルも良くまるでモデルみたいだ。特にスカートから伸びる脚線美が美しく、ついつい見てしまう。
そんな彼女にピエロは最初の雰囲気に戻って聞き返す。
「何ですか?」
「特に用がないなら帰っていい? あんたの仮面なんか興味ないし」
興味なさそうに冷めた声で言い放つ謎の女(神山さんも含めて全員が謎だから紛らわしい呼び方だな)。
この女も凄い度胸だな。いくら空気が緩んだからといって、この状況で相手を煽るような発言をするなんて。
俺には真似できない。したいとも思わないが。
ていうか、帰ってもいいなら俺も帰りたいんだが。
「残念ながら無理です。わたくしは貴女……というより、あなたたちに用事があるので」
「じゃあ、早く終わらせて。明日も朝から練習があるから」
練習? 何かスポーツでもしているのだろうか? 確かに引き締まった良い体をしているが。
……いや、別にこれはセクハラ的な意味ではないぞ!前に遥がスポーツ選手の体について語っていたから、その時のことを思い出しただけで……って、俺は誰に言い訳しているんだ?
「あのー、私も早く帰りたいんですが……」
今度は可愛らしい感じの女の子がおずおずと遠慮がちに手を上げた。
中学生ぐらいに見えるが、俺と同じ高校の制服を着ているから高校生だろう。さっきの女と違っておっとりとした小動物みたいで思わず構ってやりたくなるタイプだ。
後、何て言うか、その……女性的な部位がちょっと身長からは考えられないぐらい発達していて、つい目を逸らしてしまう……。
いわゆるロリ巨乳というヤツだ。現実に実在したのか。
「貴女も何か用事があるのですか?」
「……はい。その、妹に弁当を作ってあげなくてはいけなくて、明日も早いから家に帰って寝たいんですけど……」
困ったように体をモジモジさせながら上目遣いで言った。
可愛すぎる……。しかも早く帰りたい理由も可愛い……というか健気で思わず頭を撫でたくなってしまう。
今のポーズでお願いされたら何でも聞いてしまいそうだ。
……ん? 神山さんが鼻を押さえているようだがどうかしたのか?
「なるほど。自分ではなく妹さんのためですか。そう言われるとわたくしも弱いですね」
「そ、それじゃあ――」
「駄目です」
期待するような嬉しそうな声を一蹴するピエロ。
今のを断るとか人間じゃねぇ……。こいつは鬼だ、鬼。
「そ、そんな……」
肩を落として落ち込む女の子に神山さんが近付いていく。そして慰めるように女の子の頭を撫でる。
う、羨ましい……。この場合、どっちに嫉妬しているのかは微妙だ。
「……大丈夫。私が何とかしますから」
優しい表情で言う神山さん。
こんな顔も出来るんだな。学校での様子からは想像も出来ないが、普段とのギャップが非常に魅力的だ。いや、当然ながらいつもの神山さんも魅力的だけど。
それにしてもこの二人は知り合いなのか? 親しそうに見えるけど。
「……ん?」
今、神山さんの顔が物凄くだらしない顔をしたような……。
目をごしごしと擦ってから、もう一度見てみる。特に変わった様子はない。
……うん、さっきのは気のせいだな! そうに違いない!
神山さんは女の子の頭を撫でた状態で、まるで親の仇を見るような目でピエロを睨む。
「そんな顔をされても困りますね。わたくしも仕事ですので。ちゃんとやらないと上司に怒られた上に時給が減らされるんですよ」
これって仕事だったのか。しかも時給って……。バイトかよ。
おどけてはいるけど、急に所帯じみてきたな。
「貴方の事情なんて関係ない。早く私達を家に帰して」
「まぁまぁ。焦らないでください。そんなに気にしなくても大丈夫ですから」
「……どういう意味?」
「これからちゃんと説明しますよ。でも、その前にそこで寝ている女性を起こしてください」
ピエロがある一点に視線をやる。
俺もそこを見てみると、いきなり体育館にいた時とは別の意味で驚愕していた。
「……むにゃむにゃ。私は世界一の……」
美少女が立ちながら爆睡していた。おまけに寝言まで言っているし。
……こんなことが有り得るのか? 疲れたサラリーマンが電車の中で立ったまま寝てしまうという話は聞いたことがあるけど、これはそれとはレベルが違う。このまま歩き出してもおかしくない。
後、世界一の何なのだろう? 続きが気になる。
「……精神体だから眠いはずはないんですけどね。どれだけ疲れていたんでしょうか……。今回はこういうタイプが集めたとは聞いていましたが予想以上です。まさか未だに話し合いすら始められないとは」
ピエロがそう小さな声で呟いた。何の話をしているんだ? 意味が全く分からない。
まぁ、気にしても仕方ないので、俺はとりあえず眠っている美少女に近付くと体を揺する。
「んー、だからバンジーは私のキャラ的に無理ですって……」
「どんな夢を見ているかは知らないが起きてくれ」
「だから何回言われても……へ? 貴方、誰?」
目を覚ますと美少女は俺を見て驚いた顔をした。
いきなり知らない男が目の前にいたらビックリするのは当たり前だろう。俺がもし息を荒らげたりしていたら即通報されてもおかしくない。
……ん? いや、どこかで見たことがあるような……。どこで見たんだっけ……?
喋ったりしたわけではないと思うんだが。
「葛西涼介だけど」
「ふぅーん。あ、もしかして私のファン? よろしくね、お兄ちゃん」
俺を値踏みでもするかのように見てきたと思うと、途端に満面の笑顔を浮かべてきた。
……可愛いけど、いきなりどういうこと? お兄ちゃん? 俺に妹はいないはずなんだが。
この美少女は一体何を言っているんだ?
今回でメインキャラは全員喋りました。一人は前回「……ゲーム?」と言っただけですが。
もちろん、ちゃんと活躍します。
では感想待ってます。