第二話
教室から出た後、遥は部活があるということで一旦別れ、部活が終了してからまた合流。俺と宮城は待っている間、近くの書店で雑誌を立ち読みしていた。
そして今は落ち着いて話すために駅前のマックに来ている。席は俺の隣が宮城で、遥は真正面だ。宮城から反対意見が出たが、俺も遥も興味がなかったから適当に無視した。
ついでに言うと教室で約束した通り、ここは完全に宮城の奢りだ。とはいえ家に帰ったらすぐに夕食だから、そんなに食べられないけどな。俺が頼んだのはポテトとドリンクのファンタだけだ。
「どういうことなの?」
遥がハンバーガーを食べながら不機嫌そうに俺を問い詰める。俺が強引に口を塞いだことを怒っているのだろう。
ちなみに遥のハンバーガーも宮城の奢りだ。本当、可愛い女の子に甘い奴だな。
「……そ、それよりも遥はハンバーガーなんか食べて、夕食は大丈夫なのか? 遥の母さんって食べ残しには厳しかったよな?」
「露骨に話を逸らさないで。後、部活で疲れているからこの程度なら大丈夫。たまに皆と食べに来るし」
遥が自分の隣に置かれているテニスラケットの入ったケースを見ながら言う。
遥が入っている部活は硬式の女子テニス部だ。実力は弱くはないけど強くもないという微妙なところらしい。
ていうか、皆って部活メンバーのことだよな? 女子だけでハンバーガーを食べに来るのか?
女子はカロリーとか気にするイメージがあるから意外だ。遥がそういうの気にしないのは知っていたが。
「…………」
「…………」
中々答えようとしない俺に対して遥が「早く言え」と無言の圧力でプレッシャーをかけてくる。
……何か下手に時間を空けたせいで逆に言いづらい。何でその場で言わなかったのだろうか? そうしていれば遥が(多分)不機嫌になることもなかったし、俺がこんなに追い詰められることもなかったはずだ。
ちょっと理由を考えてみよう。……うん、全て宮城のせいだな。 後で一発殴ってやる!
そんな俺の心中を知ってか知らずか、宮城はいつも通りの軽い態度で俺の代わりに遥に対応する。
「葛西が告白したのは聞いたよな?」
「それは聞いた。それで誰に告白したの?」
「神山理沙だ」
「……神山理沙?」
誰か分からないみたいで首を傾げる遥。
彼女は人と関わらず基本的に一人でいるからな。そのせいで目立たないから、遥が分からないのも無理はない。
……美人だから一部にファンがいるという話を前に宮城から聞いたことはあるが。
「まぁ、いいか」
と、遥は一瞬だけ考える素振りを見せたがすぐに思い出すのを諦めた。諦めるの早すぎるだろ。まだ十秒も経ってないぞ。いや、どうせ考えても思い出せなかっただろうから別にいいけど。
こういう時に判断が早いのはスポーツをしているからだろうか? 単純に神山理沙本人に興味がないだけ、という可能性も高いが。
「で、どうなったの!?」
急に険しい表情をして遥が勢いよく俺に詰め寄ってきた。
何を焦っているのか知らないが汚いからやめろ! ハンバーガーを食べている途中にそんなことをしたせいで、色々と具が下に落ちているし口元が汚れている。
不幸中の幸いは俺の顔に具がかからなかったことだな。もしかかっていたら額にチョップをしていたところだ。
「……何がだ?」
とりあえず俺は右手で遥の頭を掴んで押し返す。
今回が大丈夫だったからと言って、次も大丈夫とは限らない。
「だから告白よ! 成功したの!? 失敗したの!?」
「それは……」
笑われるのが分かっているせいで思わず言い淀む。そのせいで妙に溜めるような形になってしまった。
遥が「それは?」とハンバーガーをゴクンッと食べきってから急かしてくる。女子が恋愛事に興味津々なのは分かるが、興味を持ちすぎだろ。もうちょっと気楽にしてくれたら少しは言いやすくなるんだが。
もしくは成功していたら抵抗なく言えたんだが。むしろ自慢する。
とはいえ、このまま黙っていても仕方ない。……言うか。
「……フラれた」
「……え? 何て?」
小声で言ったせいか聞き取れなかったみたいで聞き返してきた。もう雰囲気で察してくれ……。
「フラれた」
そう言うと今度は聞こえたようで遥は安心したように息を吐きながら椅子にもたれかかった。
あれ? 予想と反応が全然違うんだが、どういうことだ?
……あ。もしかして自分よりも先に俺に恋人ができるのが気に食わなかったのか? それで俺がフラれたと聞いて安心したと。それなら納得だ。
何か隣で宮城がニヤニヤしているのがムカつくが無視だ。
「だよねー。神山さんがどんな人かは知らないけど、涼介と付き合う人なんかいるわけないよねー」
失礼な奴だな。俺がモテないみたいに聞こえるぞ。俺だって本気を出せば恋人の一人や二人ぐらいできる。
と、文句を言いたいところだが止めておくか。フラれた直後では説得力がない。
「遥ちゃんへの言い訳が終わったところで、次は俺の質問に答えてもらおうか」
「……何の言い訳だよ?」
「私をちゃん付けで呼ぶのは止めて
俺と遥がジト目でツッコむが、宮城は俺達の反応を予想していたみたいな態度で華麗にスルーして言葉を続ける。
「教室で言っただろ? お前が何て言われてフラれたかだ」
「ああ、それか」
ていうか、何でそこまで俺がフラれた理由が知りたいんだ? あんまり自分の失恋話をしたくないとはいえ、今更だし奢ってもらったからには言うけど。
何か俺がフラれたと聞いた時の遥のリアクション並に意味が分からない。
「え~と……確か『私、男には興味がないから』だったか……」
「……それって神山さんは恋愛自体に興味がないってこと?」
「さぁ?」
遥の言葉に俺は適当に返事する。
そんなこと俺に聞かれても分かるわけないだろ。ちゃんと話したこともないのに。
まぁ、常識的に判断するならその可能性が一番高いと思うが。というより俺にはそれぐらいしか思い付かない。
だが宮城が確信しているかのような口調で新たな可能性を口にする。
「……なるほど。神山さんは百合か」
「さすがにそれはないだろ」
「いやいや、よく考えてみろ。男に興味がない――つまり女が好きってことだ」
つまりの意味が分からない。何か色々と大事な部分が略されているような気がするんだが。
いや、何となく言いたいことは分かるけどな。俺もそういうのには理解があるし。
「……ユリ?」
遥を見てみると言葉の意味が分からないのか不思議にしている。多分、花のユリと勘違いしているのだろう。
これに関しては説明するつもりはない。知らないなら知らなくていいことだ。
その後は軽い雑談をして解散、マックを出たところで宮城とは別れて遥と一緒に家に帰った。
初失恋した日の夜、俺は風呂に入ってから自室のベッドの上に寝転んで漫画を読んでいた。
これを読んだら寝るか。遥と宮城に話したせいかは分からないが失恋のショックはある程度落ち着いたが、夜更かしする気にはなれない。それに今日は特に宿題もないしな。
漫画を読み終わったところで、本棚に直すために立ち上がると――。
「……は?」
景色が一変して全く違う場所に俺はいた。
二話終了です。
感想待ってます。