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第一話

「一年の時から好きでした! 俺と付き合ってください!」


 高校二年に上がってから一週間ぐらいが経った頃の昼休み、俺は好きな女の子――神山理沙を校舎裏に呼び出して告白した。

 生まれて初めての愛の告白――俺の今までの十六年の人生の中で間違いなく一番の大勝負だ。心臓がバクバクとうるさい。緊張のし過ぎで時間の流れが遅く感じる。まだ告白してから数秒も経ってないのに、もう一時間ぐらいこうしている気分だ。


 初めて見たのは高校の入学式の日、舞い散る桜の下に彼女はいた。肩まで伸びた黒髪に華奢で女の子っぽい体、そして何より無表情ながらも強い意思を感じる目……全てに目を奪われた。見惚れた。

 それからは同じクラスにこそなれなかったが、廊下ですれ違うたびに彼女を目で追う俺がいた。


 俺の告白を聞いた彼女は少しも考える素振りを見せず、黒髪をたなびかせながらもと来た方向に向き直す。


「……私、男には興味ないから」


 俺の人生初の告白はものの見事に玉砕した。








「はぁ……」


 放課後、俺は机に突っ伏して溜め息を吐いていた。

 もう通常通りに授業は始まっているが、失恋のショックで先生の話は全く耳に入らなかった。先生には何回も注意されたが、それすらも気にならなかったほどだ。


 覚悟はしていたがフラれるのはキツい……。だが、それとは別に俺には不可解なことがあった。ついさっき気付いたことだが。

 何で俺は告白したのだろうか? 俺は神山理沙に特別な感情を持っていた。それは確かだ。でも、それだけでは告白する理由にはならない。

 実際、昨日の夜まではそんな気はなかった。それなのに昨日、風呂から上がって寝ようとした瞬間、急に告白したくなった。……いや、しなくてはいけない気がした。

 勢い余って……ではない。本当、何でなんだろうな? 自分のことながら理解できない。

 と、こんなことを考えても仕方ないか。分かるとも思えないし。


 顔を上げて教室を見渡してみると、部活に行った奴もいるようだが思ったより多い人数が教室に残って友達と喋っていた。

 何か恋バナで盛り上がっている女子達がいて落ち着かないし帰るか。そう思った瞬間、いきなり後ろから俺をからかう声が聞こえてきた。


「よぅ、葛西。随分、落ち込んでいるみたいだけど失恋でもしたのか?」


 首だけ動かして声の出所を見ると、そこには制服を着崩したいかにも遊んでいるといった感じの男が立っていた。

 こいつの名前は宮城智輝。高校に入ってからの知り合いで、見た目通りチャラい女好きだ。まだ教室に残っていたのは女子と喋っていたからだろう。


「何だ、お前か……。今すぐ消えろ」


「いきなり辛辣だな!?」


 うるさいな。今はお前の相手をしている余裕はないんだよ。早く一人になりたい。

 だが、宮城は俺の様子から何か悟ったのかニヤッと性格の悪そうな笑みを浮かべる。こいつって勉強は微妙なクセに変なところで鋭いから困ったものだ。


「そうか、フラれたのか。……で、相手は誰だ?」


「別にそういうわけじゃ――」


「そういや、前に隣のクラスの神山のことが気になるとか言っていたな。もしかして神山か?」


 全く人の話を聞いてない上に一人で結論を出しているな。しかも、それが当たっているのがたちが悪い。

 これはどんな言い訳をしても無駄な流れだ。もう諦めて正直に話すか。そっちの方が楽だろうし。


 強引に振り切って帰れば宮城も諦めるだろうが逃げているみたいな感じがして嫌なのでやる気はない。それに、そこまでする必要のあることでもないしな。

 もし失恋のことを言い触らすような奴が相手なら絶対に言わないが、宮城はそんなことはしないだろう。性格は悪いが相手が本当に嫌がることはしない男だ。


「そうだ。昼休みに呼び出して告白してフラれたんだよ」


 周りのクラスメイト達が聞いていないか確認してから内緒話にならない程度に小声で言う。宮城も空気を読んでか声を少し小さくして話を続ける。


「神山ねぇ……。確かに美人だから人気はあるけど意外だな」


「何が?」


「葛西って俺と違って見た目で女を選ぶようなタイプじゃないと思っていたからな。去年、教育実習でめちゃくちゃ美人な先生が来ても興味なさそうだったし」


 おどけるように言う宮城。

 俺のことを励まそうとしてくれているだろうか? ……こいつが男に優しくするわけないか。

 後、別に興味がなかったわけじゃないぞ。お前みたいに馬鹿騒ぎする気にならなかっただけで。


「容姿だけで告白したわけじゃねぇよ」


 いや、一目惚れな訳だし容姿で選んだのか? 違うと思いたいけど喋ったことがあるわけじゃないし、う~ん……。


「ふぅーん、まぁ、そこはいいや。興味ないし。それより何て言われてもフラれたんだ?」


「……そこまで言う必要があるのか?」


「他の人に話した方が楽になることもあるんだよ。俺も初失恋の時はそうだったからな。こういうのは引き摺るよりも早めに笑い話にした方が良い」


 そういうものなのか? 何か適当に言いくるめて俺の失恋話を聞こうとしている気がしてイマイチ信用できないんだが。

 まぁ、下手に気持ちを引き摺るよりは良いというのは納得できる。

 机の中に入っている教科書を取り出して鞄の中にしまいながら言葉を続ける。


「じゃあ、失恋してショックを受けている俺を慰める意味でも何か奢ってくれ」


「それぐらいなら良いぞ。今日、遊ぶ予定だった女の子達が急用が出来たとかで暇になったからな」


 ……本当にこいつに話していいのだろうか? 妙にイラつくんだが。

 こんな女誑しに失恋のショックが分かるとは思えない。


「何の話してるの?」


 急に宮城の後ろから元気な女子の声が聞こえてきた。

 げっ、この声は……。


「お、遥ちゃん。実は葛西の奴が昼休みにある女子を呼び出して告白したんだよ」


「え!? それってングッ!」


 俺は咄嗟に大声を出そうとした馬鹿なクラスメイトの口を塞ぐ。

 全体的に引き締まった体をしておりポニーテールが特徴的な女子だ。名前は雪村遥。

 俺とは家が隣でいわゆる幼馴染みというヤツだ。親同士の仲が良いこともあり昔からよく一緒に遊んだりしているが、漫画みたいなラブコメ展開はない。あっても困るがな。強いて言うならからかわれたことはあるけど、遥が真顔で否定するうちになくなった。


 それにしても困ったな。宮城もわざわざ遥に言わなくていいだろ! 帰ったら間違いなく親にバラされて、その上で弄られる!


「おーい、周りに注目されてるぞ!」


 宮城が楽しそうな笑顔でそう注意してきた。

 周りを確認してみると、確かにコソコソと話しながら俺達を見ている奴等がいる。そりゃ、こんなことしたら目立つか。

 ……よし。ここは逃げるか。


「んー! んー!」


 いきなりのことに遥が抵抗するが、鞄を取ってから力ずくで教室の外に連れ出す。その後ろを宮城がついてきた。

一話終了です。


では感想待ってます。

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