誤算の中身《六華仙向》
モシナがスナイパーライフルを撃つちょっと前の話―――
モシナの住むマンションからそう遠くない場所にある商店街で買い食いしている2人の高校生の姿があった。
1人は六華仙 彼方。もう1人は六華仙 向。同じ名字というところから分かるように2人は双子である。一応、彼方が男、兄であり、向が女、妹であるが、2人の間では兄妹というだという事は気にせず接している。
「彼方は今回のテストどうだったんだ?ゲームばかりしてて私としては心配なんだが……」
心配性で少し男臭い喋り方をする向は成績優秀で生徒会長を務めている。
「あー……うん。良かった、良かった、絶好調。」
「その言い方だと中の上、と言ったところか…彼方もゲームの時間を減らせばすぐに点数など良くなると言うのに……」
やれやれと頭を押さえる。
彼方は決して頭が悪い訳ではない。寧ろ、短時間で効率的に理解出来る天才肌タイプだ。しかし、勉強や睡眠時間を話題のオンラインゲーム『LH・ウェポン・オンライン』に当てている為、学校での評価では先程のものとなる。テストでも途中まで解けているのだか、睡魔に負けてしまい答案が中途半端になってしまうのだ。
本人曰く、「睡眠は記憶を整理するためのものだ。俺は起きていても出来るから睡眠などいらない」らしいが無理をしているのがばればれである。
「いや、それは無理だ。あれは俺にとっての唯一の娯楽。辞めるわけにはいかない。」
「辞めろ、とは言ってないのだが…敢えて言うならその歩き方を止めてほしい」
「敵からの狙撃のAIMをぶれさせる為の歩き方だ。辞めるわけにはいかない。」
「こんな平和な世の中に銃で狙われる事などなかろう。全く……現実との区別くらいつけた方が良いぞ」
「・・・・・・・・・」
彼方の歩き方は不規則なステップを上下左右に踏んでおり、普通に街を歩く分には不必要な動きが多い。
ゲーム内では有効な動きだとしても、現実では変な物を見る目を向けられている。
向は気にしていないのだが、たまにゲーム離れの促す為に言っている。
「ストレスを溜めない為にもある程度の娯楽は必要だとは思っている。しかし……」
彼女は次の言葉を最後まで繋げる事が出来なかった。
何故なら、
ダンッ!!
「…………っく!!」
向の体を一筋の弾道が通ったからだ。
「! 向ぇ!!」
普段は声を荒げない彼方もこの時ばかりは違った。
それと一緒に、彼方はゲームでの癖で弾丸の道筋から発射場所を割り出した。この場合で本当にすべき事だったのかは分からなかった。しかし、マンションの一室、14階の左から7室目からだとは認識出来た。
それから向の様子を確認し直す。すると、血は出ていない事が分かった。その代わり、どんどん体が薄くなっていく。通行人は銃で人が撃たれたというのに気付いていない体だ。あるいは無視しているのかどちらにしても彼方は周りに気を使える程、冷静ではなかった。
向の体が完全に消える。その過程で出来たものかなんなのかは分からないが、光、輝くもやのようなものが先程彼方が見つけたマンションの一室に向かって行くのが分かる。
「あそこに行かなくては………向を……!!」
彼方はなけなしの体力を振り絞ってマンションへ走り出した。