神さまの迷案
「あーもぅ〜まーたーまーけーたー!」
ここはマンション内の一室。コントローラーを壊れない程度に投げて床で二、三転する。良い感情のやり場が見つけられず、物に当たっているようだ。
そして、おもむろにコーラを取り出すと一気に飲み干す。
「ぶほぅっ!!」
当然の結果、というのは少し可哀想だが一気のみした代償があった。
「もうやだ〜どれもこれも全部あいつのせいだよぅ、絶対……」
むせながらもそう言って先程まで戦っていた相手に言いがかりをつけた彼女の名は―《モシナ》。
16から18歳程の女性の姿をしており、桃色の長い髪をおおざっぱに後ろでまとめている。服装はだるんと伸びきったTシャツに、腰周りが履いていて苦にならないゆったりとしたズボンを着用している。
そんなだらしない格好をしていて威厳なんてものは感じられないが一応、彼女は神の一人だ。
知名度は低いものの力は強いのだが、自分よりも実力がない他の神が人間に崇拝されているのに腹を立て、仕事を真面目にせず迷惑をかけていた。その態度が目に余るものだと判断した上級の神が彼女を下界に落としたという訳だ。
そんな彼女が暇潰しの為にやっているのが『LH・ウェポン・オンライン』、先程対戦相手に難癖をつけていたゲームだ。
基本的には王道のFPSとして作られているのだが、特徴となる要素が二つある。一つはストーリーにも重きを置いておりRPGのようなシステムも取り入れられていること。もう一つは武器の種類が重火器のみならず近接武器も充実している事である。
これらのシステムが受け、ゲーム自体の知名度は例として上げるならば学生の4分の1はプレイヤーで2分の1は「名前は知ってる」くらいである。
「有名だから」が理由で何となく始めたモシナだったが予想以上にはまってしまい、少なくないプレイヤーの中でランキング上位に名前が上がるほどの実力となっていた。
しかし、テクニックを競うゲームだけあって越えられない壁というものは存在する。
ランキング上位10人のプレイヤーが他とは群を抜いて上手いのだ。
トリッキーな戦いで相手を翻弄する者、弱い武器を使っても巧みな戦法で勝利を掴む者。そして、数々の罠を布石とし遠くからの一撃で仕止める者。
モシナが先程対戦していたのはランキング1位のプレイヤーだが、他のランキング上位プレイヤーと戦ってはぼろぼろにやられている。その度に難癖をつけるのだ。ゲームを楽しむプレイヤーからすれば望ましくない態度である。
モシナも我慢の限界だった。数えるのも嫌になる程の敗北を重ね、人間に負けているという劣等感もあった。
ふと、モシナは体を起こし良い案が思い付いたと言わんばかりの大声で言った。
「そーだ、このゲームをコピーした世界をつくってにっくきプレイヤーを殺っ……何とかして召喚しよー!」
何とも迷惑な事が始まるようである。