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第7話:クエストの報告【リコリス】

リコリス視点のお話です。

「じゃあ俺はここの宿だから。何かあったらここに来るといい」


 クエストが終わったので町に帰ってきたのですが、ジェイルさんはギルドには寄らず宿へと戻ってしまいます。

 と、いうことは私がギルドへ報告に行くんですね。


「では、クエストの報告が終わりましたら報酬を届けに来ますね」


 ジェイルさんの住んでいる宿はとても綺麗です。お宿賃はどの位でしょう?

 私もいつかこの宿のような場所に住めるようになりたいです。



「ちょっと待った」

「はい、なんでしょう?」


 早速ギルドへ向かおうとしたら、ジェイルさんに呼び止められてしまいました。

 もしや、また粗相をしてしまったのでしょうか?


「クエストを受けたのはリコリスで、こなしたのもリコリスなんだから、報酬は全部リコリスのものだ」


 いえいえ、そんなおかしいです。

 そうしたらジェイルさんは、ただ私のお守をしただけになってしまうじゃないですか。そんなのダメです。


 粗相ではありませんでしたが、もっと深刻なお話でした。



「ですが」

「お前が俺の心配をするなんて二年早い」


 ダメでした。

 何度か掛け合ってみましたが、結局断られてしまいました。


 それにしても二年ですか。

 心配をするのに二年なら、ジェルさんの前で胸を張れるようになるのは何年後でしょう。


 そういえばスライムの対処方を教えてもらった時以外は、魔物を退治するのも採取をするのも私にやらせていました。

 ずっとそのつもりだったのでしょうか?

 なんだか、ジェイルさんにはとてもお世話になっていて頭が上がりません。



§



 ギルドに戻ると受付をしているミランダお姉さんが迎えてくれます。


「リコちゃんお帰りなさい。ロックガードさんは一緒じゃないの?」

「ジェイルさんはお家に帰っちゃいました。なので私一人でクエストの報告です」


 そう言って、クエストで採ってきたものをミランダお姉さんに渡します。

 ジェイルさんと一緒に取ってきた薬草です。


「まったく、ロックガードさんたら薄情なんだから。えーっと、1,2……5株ね。うん、しっかり教わってるみたいでお姉さん嬉しい。はい、じゃあこれ報酬のお金ね」

「ありがとうございます」


 ジェイルさんは薄情なんかじゃないです。

 いいえ。それはきっとミランダお姉さんもわかっているはずです。



 クエスト報酬にとミランダお姉さんから渡されたお金は、クエストに書いてあったお金より少しだけ多いです。

 これはジェイルさんの言ってた通りです。


 ギルドに渡したものが規定より多いと、それを他所で売った分よりほんの少しだけ少ないお金で買い取ってくれるそうなのです。

 なので他所で売る人もいるのですが、それをすると色々と面倒なので素直にギルドに引き取ってもらうべきだと教わりました。

 多すぎると買い取ってもらえないとも言っていました。需要がどうとか。



「それでリコちゃん。ロックガードさんとのクエストはどうだった?」


 どうだった? と言われますと……。

 思い出せばクエスト対象の薬草を採ってくるのを忘れてしまったり、手をつなごうとしたり失敗ばかりでした。反省しないと。

 そうです。手を引いてくれるお姉ちゃんは嫁いで行ってしまったので、これからは自分で頑張らないといけないのです。



 あ、そうだ。一つ気になっていたことがありました。


「ちょっと聞いていいですか?」

「ん? なーに?」

「ジェイルさんって何で剣を使っているのでしょう?」


 お父さんが昔言ってました。

 話に聞くような英雄はみんな剣を使っているが、槍とか弓とかの方がよっぽど強いって。

 確かに剣で狩りをする人なんて村には居ませんでした。ジェイルさんが初めてです。


 ですが、ジェイルさんはそれらにも劣らず上手に扱っている……ような気がします。



「それはだな――」


 私とミランダお姉さんが話をしているとクマがやってきました。

 いえ、間違えました。クマのような男の人がやってきました。どちら様でしょう?


「おう、誰だ? って顔してるな。ジェイルに聞いてないのか?」

「そちらの方はガルバンさんよ。リコちゃん」


 ガルバンさん。ジェイルさんが言ってました。

 たしか、このギルドの冒険者で偉い人だから困ったらその人に頼れと。


「はい、ジェイルさんから聞きました。初めまして。リコリス・ブラウンです、よろしくお願いします」

「おっと、丁寧な喋りの嬢ちゃんだな。ガルバンだ、よろしくな」


 よろしくお願いします。



「それで、ガルバンさんは何て言おうとしてたのかしら?」

「おう、ジェイルが剣を使う理由はだな。単純に得意だからだよ。あいつ、昔は騎士をしていたからな」


 騎士様!

 びっくりです。

 お母さん聞いてください。

 なんと、昨日森で危ない所を助けて下さった男の方は元騎士さまでした。


 私はいつの間にか、騎士さまとパーティを組んでいたのです。すごいことです。

 お姫様は冒険者なんてしませんが、まるで物語のお姫様になったようです。



「それに、剣を使ってる奴ならそこそこいるぞ。騎士を目指してるやつとかは狩りでも剣を使うのがたまにいるくらいだ」

「騎士さまは剣を使うからねー。やっぱロックガードさんも昔から剣の練習してたのかしら」

「ほへー……」


 どうりで素敵な男性だと思いました。

 村には若い男性の方が殆ど居なかったのでよくわかりませんが、お顔もキリっとしていてギルドにいる他の男性のようにクマみたいな身体ではなく細いのです。

 それでも振り回す剣は次々と私に襲いかかるサルの魔物を振り払ってくれました。

 お父さんよりかっこいいです。




「なんの話だ?」

「!」


 び、びっくりしました。ジェイルさんです。

 噂をしていたら本人が来てしまいました。



「あら? ロックガードさん、宿の方に戻ったと聞きましたが?」

「ああ、図鑑を見つけてな。駆け出しの頃に書いたものなんだが役に立ちそうだと思って、リコリスに渡そうと持ってきたんだ」


 どうやら、ジェイルさんが私の為に大切な本を貸してくれるそうです。

 しかもご自分で書いたご本だそうで。



「こっちが魔物の本で、こっちがクエストで必要になりそうなものが乗ってる植物の本だ」

「は、はいっ。ありがとうございますっ」

「確かに渡したな。じゃあ、俺は帰るから」

「はいっ、ありがとうございましたっ。大事にしますっ」


 ジェイルさんのご厚意に私も自然と声が大きくなってしまいます。


 私が本を受け取ったことを確認すると、ジェイルさんはそのまま帰ってしましました。

 どうやら、この本のためだけにギルドまで来たみたいです。




「それにしてもジェイルの奴、嬢ちゃんが居なかったらどうするつもりだったのかね」

「ロックガードさんって微妙に抜けたとこありますよね」


 言われてみればそうです。

 ジェイルさんは私の為に急いでこの本を届けに来てくれたのです。

 感激です。この本、大事にします。



「これは、落ちるだろうな」

「ええ、時間の問題ね」


 お二人の声でハッと意識が戻りました。

 そうです、ジェイルさんからお借りしたこの本を落としてしまったら一大事です。


 この本のためにも、早く立派な魔法使いになってジェイルさんのお役に立ちたいです。

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