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第6話:初めてのような二度目のクエスト

「気をつけることは怪我をしないようにすることと周りに注意をすること。それだけだ」

「はいっ、行ってきます」


 元気の良い返事と共にリコリスが森の中へ入っていく。


 ランクEのクエストは一人用クエストなので付いていく気はない。

 場所的にもスライムか小動物に襲われるくらいだろう。

 それで死ぬこともなければ大怪我することもない。


 もし魔物に遭遇した場合は、自分で判断して退治して来いとも伝えておいた。

 これで挫けるようなら冒険者は諦めたほうがいいだろう。他にも給仕なりなんなりの仕事はあるのだから。



§



「ジェイルさん! 退治してきました!」


 暇をつぶす方法をどうするか考えてなかったな。

 なんてことを考えながら時間を潰し、30分か40分程経った頃。

 焦げたスライムを握り締めて嬉しそうに戻ってくるリコリス。


 女な上に子供だから魔物を相手に出来るかと心配な部分もあったが、どうやらリコリスは平気なようだった。

 まあ冒険者としてやっていくつもりならこれくらいは出来て当然か。


「よし、ならこれでクエストクリアだな」

「はいっ」


 いい返事だ。

 渋々ながらの面倒見だが、こういうのが相手なら多少気が楽になるな。

 リコリスでよかった。



「それで、採取はどの位採ってきたんだ?」


 3株もあれば十分なんだがあえて伝えなかった。

 もちろんクエストは一緒に選んで受けたので、ちゃんと内容を読んでいればわかることだが。


「……」


 笑顔のままスライムを落とすリコリス。


 おい、まさか。


「す、すみません……採ってくるの忘れちゃいました……」


 どうやら、魔物を狩ることに夢中で採取の方を忘れてしまったらしい。

 確かに俺は魔物が出たら狩るようにと強く言いつけたけど。


 言いつけたけどさ。


「くっくっくっく……」

「あの、ジェイルさん……?」


 中々に笑わせてくれる。

 あんな満面の笑顔で帰ってきたのにクエストのことを忘れるとか。


 余りにも予想外だったので笑いを堪えることができなかった。


§


 笑いが収まるまでしばらく時間がかかったが、なんとか落ち着いた。


「ふー、久しぶりにこんなに笑った」

「す、すみません。すぐに採ってきます」


 対してリコリスは申し訳なさそうに体を縮こめる。

 小さい身体が更に小さくなる。


「いや待て。今度は俺も付いていく」

「はい、すみません……」


 俺の言葉に反応し、ますます体を縮こめてしまう。

 その反応にはこちらも少々申し訳なさを感じる。



「別に怒ってるとかじゃないんだ。今回は魔物とちゃんと戦えるかを知りたかっただけだからな。今度は説明しながら行くぞ」


 お、ちょっとうまくフォロー出来た気がする。


 狩りが出来るかどうかを見たいなら、狩猟のクエストを受ければよかったのに。

 と自分で思ったが、採取の基本も説明出来て丁度いいし、採取にして問題なかったな。


「は、はい! お願いしますっ」



§



 森の中でも昨日とは違って木々の間隔が広めだ。

 伐採された木もあって切り株が所々に見受けられる。

 まとめて切らずに変な切り方だと思うが、採取の場所までの目印にもなるし色々と都合がよいのだろう。


「リコリスはスライムが木の上から降ってくる生き物なのは知ってるな?」

「はい。知ってます」


 そんな森の中を歩きながら説明をする。周囲の警戒も怠らない。



「スライムは木の中でもある程度太い枝にしか乗らないんだ、そしてその中でも一番低い位置にある枝に乗る」

「そうなんですか?」


 やはり知らなかったようだ。

 冒険者の間では常識なんだが他では意外と知られていない。


 幹を登り乗れそうな太い枝を見つけたらそこに移り、獲物が下と通った時に落下する。スライムとはそういう生き物なのだろう。


「だから基本的に一番低い位置にある太い枝を見てれば大丈夫だ。この辺は目線より低い位置に枝の無い木ばかりだから上を見れば大体わかる」


 ただし、上ばかり見てると足元が疎かになるから注意が必要だ。



「はいっ。あ、あそこにスライムがいました!」


 言ったそばから見つけたらしく、斜め前方を指差すリコリス。

 俺も気づいていたがあえて何も言わない。叱って伸ばすよりも褒めて伸ばそう。


「よく見つけた。いいかリコリス、見てろ?」


 あえてスライムの居る木の下へ行き、わざと落下させ避ける。

 そして落下したスライムは蹴飛ばすと近くの木にぶつかり、もぞもぞと逃げ出した。



「わかったか? どういう生き物かがわかっていれば、いちいち相手にする必要がなくなる。張り付かれても振り払えばいいが、服が汚れたりするのは嫌だろう?」


 ゆっくりと消化液を出すだけの生き物だが、服や肌に張り付いたらそれだけで嫌悪感が付きまとう。

 回避できるならするに越したことはない。


「はいっ」


 おそらく森を歩くなら一番見かけるであろうスライムの説明をし終え、採取場所へと足を進めた。



§



 群生地に着いたが、スライム以外は何も出なかったな。

 もう一匹位スライムとは別の魔物が出てくれると嬉しかったんだが。


「何株のクエストだったかは覚えているか?」


 何故かスンスンと植物の匂いを嗅いでいるリコリスに聞く。気になる匂いでもするのかね。


「3株です」


 ちゃんと指示書を見て覚えていたようだ。

 クエストの内容はある意味で一番大事な部分だからな。



「クエストで要求されたのは3株だが摘むのは多めに5株位にしておくといいぞ」

「なんでですか?」

「俺たちは戦闘を挟むことがあるからな。折れたり、潰れたり、紛失したりすることがよくある。そのための予備だ」


 ギルドに着いてからこれは使えません、足りませんとなると最悪だ。



「あと、採取全般に言えることだが摘みすぎるのもよくない」


 余分に採ろうと摘みすぎて、その植物が全滅したら次の群生地を探さないといけなくなる。

 だから既に位置のわかっているものを大事に共有するんだ。


「はいっ、わかりました」


 言葉の通りに5株摘むリコリス。

 言われるまでもなく、ちゃんと状態の良さそうなものを選んでいた。

 これで採取の基本的な説明と戦闘に抵抗がないかどうかは見れたな。



§



「よし、今度こそクエストクリアだな」

「はいっ」


 元気よく返事をしてこちらに手を伸ばすリコリス。

 なんだその手は。


 伸ばされた手を見つめると失態に気づいたリコリスはさっと手を戻す。

 そして俯く。その顔は真っ赤で今にも泣きそうだ。


(もしかして手を繋ごうとでも思ったのか?)


 子供か? 子供だ。

 というかこの子は俺の事をなんだと思ってるんだ?

 もしかして近所の親切なお兄さんか何かだと思われてないか?


 顔を真っ赤にして泣きそうなリコリスだが、俺は別の理由でなんだか泣きたい気分になった。

スライムの生態は蛇かヒルあたりをイメージしました。

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