第5話:ランクの説明
「あ、おはようございますっ」
酒のこともあり、昼前頃にギルドに顔を出したら真っ先にリコリスに挨拶をされた。
駆け寄ってきて挨拶を貰うというのはなんだか新鮮な気分だ。
「ロックガードさん遅いですよ。リコちゃんったら、朝早くに来てずっと待ってたんですからね」
いつの間にか「リコちゃん」なんて呼んでいるミランダ。
待たせたのは悪かったが、約束も何もなかったんだから見逃してくれよ。
逆か、約束も何もしなかったから駄目だったんだな。
「ガルバンは?」
ガルバンが来てたなら言い訳の手伝い位はしてくれると思うんだが……居ないな。
「まだ来てないですね」
「そうか」
居ないならしょうがない。
「それで今日はどうするんですか?」
どうする、というのはリコリスを含めての事だろう。
「今日はこの子のクエストの引率をしようと思ってる」
とりあえず一人用のクエストを一人で出来るようにするのが今日の目標だ。
そうすればリコリスがクエストをしている間、俺の時間が持てるようになる。
「よ、よろしくお願いします」
肩に力が入ってるな。
別にとって食おうって訳じゃないんだから安心しろ。クエストも簡単なのを選んでやる。
「そういや、ランクの説明とかは済ませたのか?」
その辺の説明が済んでると助かるのだが。
「あ、はい。ミランダお姉さんに聞きまし――」
「いえ、あまり詳しくは教えてないのでロックガードさんが"優しく"教えてあげてください」
絶対嘘だ。目が笑ってる。
大体優しくってなんだ。
「よろしくお願いします」
俺とミランダの顔を伺ったあと、リコリスからも何故か催促がくる。恐縮そうに。
そうか、俺に味方は居ないんだな。
きっとガルバンが居ても俺の味方はしてくれなかっただろう。人徳ないのかな、俺。
面倒だし小馬鹿にされているようで嫌だが、駄々をこねるような事でもないのでとりあえず簡単に説明しよう。
「ランクはFからAまでの分けてあって、その分け方だが、
Fは戦闘の発生しない主に町の中での雑用。
Eは戦闘が発生するかもしれない、しても一人でなんとか出来るクエスト。
Dは一人では難しい、2~3人で行うのが基本となるクエスト。
Cは4人以上のパーティを組むべきであるクエスト。
Bはベテランのパーティで行うクエスト。
Aは少し特殊で、ギルドの方から依頼が来るクエスト。
もちろん俺のように少ない人数で上のランクを受けることもあるが、大体こんな感じで覚えておけば大丈夫だ」
一度は聞いたらしいのでこの程度の説明でいいだろう。
「はい、ありがとうございます。ミランダお姉さんの説明より簡潔で分かりやすかったです」
「えっ!? リコちゃん!?」
リコリスの言葉にミランダが驚愕の声を上げる。いい気味だ。
「あっ、違います。えっと……ううー」
そして失言に気づき、慌ててに取り繕うリコリス。
……なんで全員してなんかしらの傷を負っているんだ。
もういい、クエストを受けて早く出発しよう。
ここは危ない。主にミランダの所為で。
§
「朝、待たせたみたいで悪かったな」
町を出たところでようやく謝罪の言葉を口にできた。
人が居る所で謝るのはなんとなく恥ずかしかった。
「い、いえ。こちらが勝手に待っていただけなので」
まあそうなんだけどさ。
だからといって俺が悪くなくなるわけじゃないし。
森へ向かう俺たちは話をしながら足を進める。ランクEのクエストは基本的に近場だ。
ランクCともなると遠出の必要も出てくるんだが、それはまだ先の話になるだろう。
「さっき名前だけは上がったと思うが、ギルドにはガルバンって名前の男がよく居るから困った時はそいつを頼るといい。どの人物がガルバンかはギルドの連中に聞けばすぐわかる」
「わかりました。ガルバンさんですね」
「他には何か聞きたいことあるか?」
ないなら終わりだ。
「ジェイルさんはいつも一人でクエストをしていると聞いたんですが」
「ああ、一人で出来そうなクエストを選んでやっているよ」
「一人でって出来るものなんですか?」
「出てくる魔物が強くてランクが高く設定されていても、採取だったり一人で出来たりするものもあるだろう? そういうものを率先してやっている」
「なんだか大変そうです」
「その代わりパーティで山分けする必要がないからな」
大変さよりも一人の気楽さの方が大事だ。
今回受けたクエストはランクEの採取。
つまり戦闘があっても一人でなんとかなるレベル。
ただ、魔物の出やすい場所での採取だからまず出るだろう。
というより出るものを選んだ。
ここで戦闘出来るかどうかを見ておかないと後で面倒なことになる。
戦闘出来ない奴がパーティに居ると全体に迷惑がかかるからな。
待てよ? そもそもパーティの経験自体はあるにはあるが、経験の浅い俺がパーティのことなんて教えれるのか?
そこのところが気になった。
「お前さ、本当に俺でいいのか?」
また言葉足らずになってしまったな。どうにも省略した喋りになってしまうことがある。
「? あのー、もしかしてリコリスって呼びにくいですか?」
俺の質問の答えは得られず、逆に質問が返ってきた。
名前が呼びにくいかだって?
リコリス……リコリス。リコリス。
「いや、別に呼びにくいとかは無いが」
「そうですか? なんだかずっとお前って呼ばれるので呼びにくいのかなと」
言われてみると確かに口に出して名前を呼んだ記憶がないな。
出会った時に一度言われたのに。
「リコリス。これでいいか?」
「はい! 初めて名前で呼んでもらえました」
そうだったか?
にしても名前を呼んだだけで随分嬉しそうにするんだな。なんだか悪いことをした。
これからは名前で呼ぶ事を心がけよう。
それよりも、先ほど言おうと思った言葉をもう一度かける。
「リコリス、俺もパーティを組んだ経験はほとんどないんだが、それでもいいのか?」
「はいっ、ミランダお姉さんも言ってました。ジェイルさんなら安心だって」
謎の信頼。
何を根拠に安心なんて言ったんだ。俺ならなんとか出来るみたいな言い方だ。
教えるのもあまり得意ではない俺の何に期待してるんだろう。
「もしかして、迷惑ですか?」
迷惑とまではいかないが、出来れば一人になりたい。
しかし、そんなことを言えるわけもなく。
「別に平気だ」
「そうですかっ、よかったです」
機嫌よく返事をするリコリス。
言質を与えてしまったからにはもう戻れない。
家を買うっていうのも急いでいる訳じゃないけれど……まあ、なるようになるだろう。
「じゃあクエスト行くか」
「はい! よろしくお願いします」
今はただ、早く一人前になってくれることを祈ろう。




