第2話:リコリス
「さて杖を拾いに行くか」
いつまでもこの森にいる理由もないしな。
「いいんですか?」
「いいも何も、これから一人で杖を拾いに行って、一人で森を抜けて帰れるのか?」
「そ、そうですね。よろしくお願いしますっ」
とりあえずリコリスが落としたという杖の場所まで向かおう。
此処と群生地に向かう途中のどこかにあるのはわかっている。
「ところで杖はどこに落としたんだ?」
でも聞く。探すより聞いた方がはやい。
「こっちです」
どこか弾んだ足取りのリコリスの後をついて歩くことにした。
森の中は何処か静けさを保っていて嵐の前のような感覚を抱く。
逆か。
嵐の前ではなく嵐の後なのだ。
ワイルドモンキーがうるさかったから相対的に静かな気がしているだけだ。
風が殆ど吹いていないもあるだろう。
きっと少し経てば、この不思議な静寂もすぐに消える。
結局、杖はちょっと歩いただけの所ですぐ見つけた。
「ありましたっ、杖です」
杖を見つけた途端に走り出すリコリス。
……なんて危なっかしい少女だ。
先ほど死にかけたばかりだというのに、危機感が足りていない。
「わかったから走るな、危ない」
潜んでいる魔物でも飛び出してきたらどうするんだ。
「はい……」
見るからにシュンとした態度に変わるリコリス。
とても子供らしくコロコロと表情が変わる。
でも、あまり哀しそうな態度を取られるとこっちも哀しい気分になってくるからやめてほしい。
だからといって言い直しはしないが。放置すると本当に危ないから。
「杖は拾ったか? 目的のものを見つけたからと言って駆け出すのは駄目だ。見つけた時こそ周りに注意を払うんだ」
一応理由も告げておく。
怒りはしたけど腹が立ったわけじゃないと理解してもらう為に。
「はい」
まだしょげた感じに返事をするリコリスを横目に杖を拾い、渡す。
「もう忘れ物はないな?」
「はい」
「なら町に戻ろう」
「はいっ」
日暮れも遠くないし早く帰ろう。
「ジェイルさんはお一人で来たんですか?」
森の中を歩いていると暇なのかリコリスが話しかけてくる。
俺も暇だったので特に咎めない。
もし暇じゃなかったら咎めるのか、などと変な思考を巡らしては苦笑を漏らす。
いや、それよりも返事をしないと。
「ああ一人だ。俺はパーティを組まずにやってるからな」
一人は気楽でいい。
今回のようなことがない限り、誰の目も気にせずになんでもできる。
「そうなんですか、私とおんなじですね」
「そうか?」
同じ? 同じか?
確かにパーティを組まないと言う面では同じだが……。
リコリスの同じという言葉になんだかすごくモヤモヤが残った。
それからも話は続く。というよりもリコリスの話を聞きながら歩く。
俺自身あまり話すことが得意ではないから有難い。
「――その時ですね。おねえちゃんが村のおばあさんを連れてきて、魔法を教えてあげてくださいって言って――」
話によると、どうやらリコリスには姉が居るらしい。
そして、住んでいた村のお婆さん魔法を教えてもらったらしい。
得意ではないから話をしてくれるのは有難いんだが、なんだかどうでもいい情報ばかりが増えていく。
久しぶりに知らない人と雑談をしたが世間話ってこういうもんだったか?
先ほどに続き、また何かわからないモヤモヤがまた少し募った。
§
少し早足で歩いたおかげか、なんとか日が暮れる前に町に戻ることが出来た。
どういう理由で此処に町を作ったのかは知らないが、町から森までそんなに遠くないのは助かる。
「町に着きましたっ」
町に着くとわざわざ報告をくれるリコリス。ありがとう、知ってる。
「そうだな、そのままギルドに行くぞ」
「はいっ」
何が嬉しいのか分からないがとにかく嬉しそうなリコリス。
クエスト証明の素材を持ち二人でギルドに向かう。
ギルドに到着したので、そのまま入ったら時間が止まったような気がした。
「? クエストの報告を頼む」
何かギルド内の空気がおかしいが、そのまま受付に報告をする。
リコリスにやり方を見せる意味も込めて先に報告する。
「あ、はい。では、こちらが報酬になります」
受付嬢の態度もおかしい。
おかしい、が戻ってきたばかりの俺には多分関係の無いことだろう。
そのまま報酬を受け取る。
リコリスも俺のを見てやり方を覚えたらしく、報酬を受け取っていた。
「じゃあ、ここで解散だな」
「はいっ、ありがとうございました」
二人で報酬を受け取った後はギルドを出て解散だ。
明日以降のことは分からないが、とりあえず今日のところは開放された。
さて、これからギルドに戻って受付嬢に話を聴こう。
もちろんリコリスに高難易度のクエストを受けさせた件だ。




