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るいとも!  作者: 唐子
5/17

5.ギャップと意外性というのは、いつだって容易く人を陥れるものなんだよ。

今回、腐女子やオタク、ライトノベルに対して偏った意見を主張します。

それらに対してヘイト的感情はなく、あくまで一意見として描いております。

また若干ですがいじめ描写があります。

腐女子の妄想もあります。


上記文で地雷の気配を感じたら、自己責任で回避をお願いいたします。




 

 地下二階から地上二階までの店舗面積は伊達じゃない。

 私は駅中の大型書店を出たところで、内心ほくそ笑んだ。


 地方都市の性として、買いたい本が入荷当日に来ることは、皆無に等しい。

 特に冬のこの時期、降雨や積雪で搬送状況がころころ変わるなんてざらだ。影響は主に遅延の方で現れる。こういう時は都市部がうらやましくてならない。三日前に並んでるなんて信じられない。


 しかし、全国展開の流通を確保しているこの書店は、まずほぼ当日に入手できる。たとえそれがマイナーレーベルの少発行部数雑誌だとしても。素晴らしい。

 新幹線も止まる県内最大のこの駅中心にこの辺りは栄えていて、バスも在来線もこの駅中心に回っている。電車は、学生や、車文化の浸透した地方都市に無免許な人には欠かせない公共交通機関だと思う。悲しいことに年々本数減ってってるけど。


 そんな地方の悲哀は、今はいい。

 戦利品を早く拝むために、帰宅しようと意気揚々と改札方面に足を向けた。この時、私は完全に油断していた。


「ユーイちゃん!」


 弾むような明るい声と、ポンと肩を叩いた軽い衝撃。それに罪はない。

 叩かれた瞬間、手からかばんにしまうはずの本が落ち、紙袋から滑り出したのも、完全な不可抗力。悪くない。


 飛び出した雑誌の表紙が、圧倒的男同士肌色率高目の薔薇色本だということ以外はな!!


 悲鳴をこらえ、神速で拾いあげかばんにつっこみ、背後の彼女の手を取ってその場を走り去ったのは、仕方ないことだと思うのよ。




 * * *


 さて。

 現場から離れた構内、ファーストフード店の片隅からお送りします。

 テーブルに肘をつき両手を組んで額につける、いわゆるゲンドウポーズで沈黙する私と、貢物のストロベリーシェイクにポテト、アップルパイを前にほくほく顔の肩を叩いた人、莉子ちゃん。もうかなり寒いのにシェイクとか、よく平気だね?

 莉子ちゃんは上機嫌でスマホをいじっていて、ぱぱっと作業を終えると卓上に置き、元気よくいただきますと言って目の前の食べ物をぱくついた。あっけらかんとしたものだ。いっそ突っ込んでくれたらリアクションも返せるんだけど。

 大げさにビクつくのは、私の持つ背徳感というか罪悪感というか、それ由来のもので、声をかけてきた莉子ちゃんに罪はない。ないんだから、私。

 いつまでも沈黙しているわけにはいかない。意を決してたずねよう。まずは遠まわしに。


「えっと。この駅で会うのは初めてだよね」

「うん。バイトあるから、いつもはもっと早い時間だよー。今日はないからブラブラしてた!」

「そっか。どこでバイトしてるの?」

「コンビニだよ!アタシらの地元の駅の改札出てすぐのとこ」

「あ、あそこか」

「週四くらいでねー。ユイちゃんはバイトとかしてんの?」

「してるよー。私も家から近いファミレス。ホール担当」

「おおーすごい!アタシもファミレスがよかったけど、メニュー絶対覚えられないだろうからよせ、って止められたんだよ」


 彼女の言うコンビニは覚えがある。青と白の制服のところだ。そういえば歩くんも、自宅からほど近いファミレスでバイトしてると聞く。キッチンらしいけど、いつかは働いてるところ見てみたいな。


「それはそうと、すごい本買ってたね!」


 ジャブから入ったら、ものすごいアッパーカットくらいました。

 ▼えがおで しんじつをいう こうげき!

 ▼ゆいに 100のダメージ こうかはばつぐんだ!


「………………………えっと、そのことなんだけど」


 こわばった顔に必死で笑顔を作る。口の端を引きつらせていたら、輝かしい笑顔でサムズアップ。


「ダイジョブ!うちの学校、もっとすごいのいるから!」


 ソウイウモンダイジャナインダケドナー。

 ちょっと遠い目をしたら、莉子ちゃんはきょとんとした顔で両手で持ったアップルパイをほおばった。かわいいな。小動物か。卓上に置いておいた自分のスマホでとりあえず一枚写真をとる。

 よし、腹を決めた。


「莉子ちゃん、『腐女子』という言葉をご存知?女性という意味でなく」

「知ってるよー。アレでしょ、男同士のいちゃこらが好きな女子」

「そうそれ。私は、それです」

「ふんふん」

「で、秘密にしているので、どうか、なにとぞ、他言無用に願います」

「いいよー」

「気分いいものじゃないってわかってますこれからも日陰に徹するので、どうか……ん?」


 ちうちうシェイクをすする莉子ちゃんは、至ってフラット。まさかこんな反応が返ってくるとは思わなくて、茫然としてしまう。


「誰にも知られたくないんでしょ?いいよー黙っとく。あ、あっくんにも黙ってた方がいい?」

「だ、黙っててください……」

「言ってないの?」

「……言えない、よ……こんな」


 私はこの趣味を、リアルの友人知人には一切もらしていない。それは勿論、犬養くんにも。

 家族は不安だが、ばれていないと思いたい。


 理由は簡単。マイノリティだから。

 いくらメディアに曝され、腐女子やオタクが市民権を得た昨今だろうが、大多数の人にとって、これは嫌悪感をもたれる趣味なのだ。

 マナーの悪い腐女子をあげつらう言葉など、そこここに溢れている。真実は時に容易く人を傷つける。それを見て私は怯え、時に我が身を振り返り、いつだって自戒する。骨無しチキンいうな。慎重派なだけだ。


 とにかく、ばれるわけにはいかなかったのだ。


 それではどうやってこの欲を発散するのかと言うと、私の使用ツールはもっぱらネットだ。手元に残る媒体で所持しないよう努めている。それでも増えるのが薄い本なのだけど。よくある怪談だ。コワイ。それはいいとして。

 高校入学を機に自分用のパソコンを購入し、それからは充実のオタクライフ。読專だからできることだね。これで書き手だったら、このもてあまし気味の熱は簡単にオーバーフローしていた。日常で妄想は、これはもう息をするようなものだから、勘弁願おう。


「アタシの学校の子は、結構おおっぴらにしてるけど」

「それができるのは、わきまえた一部の心臓の強い子だけだよ。あとは側に仲間がいるかいないか」


 赤信号みんなで渡れば、というやつだ。ちなみに私は、ネット上のオタ友はいても身近に直に話すような同士はいない。辛い。


「なんか大変なんだねー。んじゃ、黙ってる。代わりに聞きたいことあるんだけど、聞いてもいーい?」

「黙ってていただけるのなら、もう。答えられることなら」


 にこにこ笑いをニヤニヤに変えて、莉子ちゃんは言う。


「あっくんとのなれそめ、教えてよ!」




 * * *


 うーん……あのね、引いてもいいんだけどね。


 最初は、そういう妄想対象として見てたの。


 あ、引かない?よかった。ここで引かれたら、この先話せないから。続けるね。


 入学してしばらくして、周囲を見渡す余裕ができるでしょ?

 で、腐女子という生き物は、息を吸うように妄想できるのですよ。

 つまり、仲のいい男子が二人いれば、自然目が行くんですね。


 驚かないね?あ、学校の子?消しゴムとシャーペンとノートで泥沼の三角関係を熱弁してた?やだすっごい友達になりたい。まぁそれはさておいて、そんな感じで物色してたわけです。

 目を皿にして、仲のいい男子たちのくんずほぐれつきゃっきゃうふふなじゃれあいをほほえましく、時には本能のままにガン見してたわけで。そんな中で見出したのが、犬養くんだったわけです。


 なにが決め手?

 うーん、最初は、空気、かな。

 なんか、物静かで大人しやかで、でも怖気てる風でもなくて背筋が伸びてて、目に付いたんだよね。

 冷静なクールキャラかな?って観察してたら、割とのせられやすいし笑い顔は無邪気だし、男子とは普通に接するのに女子の前では借りてきた猫状態ってかわいすぎか!奥手か!女子苦手か!まだ割と少年少年してる体格で、背も高すぎず低すぎずで、好みの童顔でなにより男子と!距離が!近いんだ!とくに4組の上山くん!お互いに遠慮がない、解り合ってる感じ!上犬かな?犬上かな??上犬でいいよ!犬養くん総受けおいしいよ!あなたが主人公だ!!

 う、んんっ……とまぁ、こんな感じで、大好きなお気に入りキャラができた感じで愛でてました。気持ち悪くあらぶってごめんね。

 あ、上山くんも同じご町内なの?小中一緒?やだ……それはそれで……すごく……たぎります……。


 数か月は、こういう風に愛でいたんだけどね。

 その状態でどう恋愛までいったのか?そうだね、きっかけはあったよ。



 ある日の放課後、犬養くんの教室の近くを通ったのね。あわよくば見かけるかなーくらいの気持ちで。

 教室にはまだ何人か人が残ってて、犬養くんの姿はなかったから、さっさと帰ろうと思った。


 したら、ガターンってイスが倒れる音がしてね。何だろうって、教室の後ろのドアからそっと覗いたの。

 教室の中では、ひとりの男子が、三、四人の男子の前で立ち竦んでた。


 その子の前に立つ男子の高く上げた手には、一冊のラノベがあってね。一目でその子のものだってわかった。身長差で、どうやっても届かないところに上げてたからね。

 その時はまだ、周囲も遊んでるのかなって笑えるくらいの、暢気な雰囲気だった。

 でも、「返してくれ」っていう言葉と行動に対する反応が、嫌らしくてね。

 「こんなガキ臭いもの読んでるのか」「こいつオタクってやつじゃね」「うわマジか、キモいな」こんな風なことを言ってた。


 彼らが笑いながら吐く言葉を聞くたび、その子はうつむいて、肩が震えてた。

 周囲も笑えない状況になったことに気づいて、何も気づいてないのは、ただからかってるつもりになってるその男子たちだけだった。


 ……中学でも一度、同じようなことがあったんだ。

 その時は、オタクだってバレたのは男子じゃなくて女子で、ネタになってたのは、うん、男同士の同人誌、ってやつで。

 酷かったよ。中学生の悪ノリも、性癖を弾劾するような空気も、孤立無援に立たされたその子も、怖かった。


 ……私が腐女子だって、絶対バレたくないのも、これが原因。


 オタクだということがバレたその子は、周囲から孤立していって、登校拒否になった。

 もちろん持ち込み禁止のものを持ってきたことは悪い。でも、人の趣味を嗤うのは、違う。


 あげつらわれて、人格や存在そのものを否定されて、泣いていたその子を助ける人は、いなかった。……私も含めて。


 このことが、ずっと引っかかってた。


 同じ趣味を持つ誰かを助けられなかった申し訳なさ。

 人に言えない趣味を持っているという後ろめたさ。

 人を見捨てた自分に対する嫌悪感。不甲斐なさ。


 でも、また同じような場面を垣間見て、体が動かなかった。

 また後悔するってわかってて、でも体は正直で、とっさに保身に走った。最低だよ。

 あぁ、慰めてほしいわけじゃないの。自分の行動が最低だって、自覚してるってだけの話。


 でね、その時、さっと反対側の入り口から教室に入っていく人がいて。それが犬養くんだったんだけど。

 教室のちょっと不穏というか、嫌な空気に気づいて、首をかしげてね。取り上げられた本を見て、笑ったの。


「それ、面白いよな」


 って。

 犬養くん、そんな反応するような人じゃないって思われてたみたいで、教室に残ってた人はみんな、この擁護の言葉にびっくりしちゃって。

 みんな呆気にとられてる隙に掲げられた本をとり返して、ぱらぱら流し読んで、設定がいいとかここが好きとかこのセリフがいいとか、その子に普通に話し始めて、弱い者弄りの雰囲気も嫌な空気もどっかいっちゃった。

 その子も好きな作品の話できるのがうれしかったのかな、きらきらしながらどこが面白いとか熱が入って。周囲で窺っていた人たちも、当のからかっていた子も興味惹かれたみたいで、次第に話に混じっていって。

 しまいにはみんなで回し読みが始まって、口々に面白いって声が上がった。

 その子も嬉しそうに笑ってたし、周りも笑顔だった。


 で、なんだろうな。

 すごく勝手だけど、救われた気持ちになったの。

 その流れを作った犬養くん、すごいな、って。

 あの時の私にできなかったことをやってのけた犬養くんが。

 すごいことをしたのに、全然すごくない風に流しちゃう犬養くんが。

 すごく、かっこよかったのよ。




 * * *


「―――と、まぁ、きっかけはこれかな。

 そのあと段々キャラ以上に想い出して、片思い自覚して、進級で同じクラスになって、私から告白して、という流れ?誰かに話すの初めてだから、支離滅裂だったらごめんね」

「いやいやいやいやいやいや。いいね!なんか、アタシの知ってるあっくんじゃないけど、いいね!」

「ふふ、で、意識して目で追いかけたりしてね。告白はもう勢いかなぁ。セオリーなら、一年間同級生として近づいて、好感度あげてから告白、なんだろうけど、待てなくて。お試しでいいので、現時点で嫌悪感なければ付き合ってくださいって」

「あっくん基本鈍感だから、そのくらい押し強くないとダメだったと思う!」

「んん、莉子ちゃんにだけは言われたくないと思うけど。そうだよね。基本姿勢が受け身だから、ぐいぐい押していくのが正解だったっぽい」

「でも見た目の好みで言えば、ユイちゃんあっくんのど真ん中だよ。あっくんおっぱい星人だから!」

「おお、薄々気づいてはいたけど……このコンプレックスでしかない乳もたまには役立つのか……」

「んでもって、一度懐に入れちゃえば結構情が深いから、わりと面倒見てくれるんだよ!」

「うん、それはわかる。大事にしてもらってます」

「うわぁ、のろけだぁ」


 うげぇと舌を出す莉子ちゃんは、嫌がるそぶりで目元と声は楽しげだ。私も笑う。

 ひとしきり二人で笑うと、ふ、と莉子ちゃんが真摯な目をして、提案してきた。


「ね、バラしても平気だよ、あっくんなら」


 視線がゆれる。……莉子ちゃんは、ちょっと怖いな。

 犬養くんは、莉子ちゃんのこと、鈍感でバカで本能で生きてるって言ってたけど、ちょっとわかる。

 彼女は馬鹿正直なくらいまっすぐで、本能的に、人に優しく在れる人だ。


 そしてこれまでの話でぼかしていた核心を見逃さない。


 結局のところ、私はまだ怖いのだ。


 腐女子たる活動は、最早生きがいとも私の一部とも言える。

 いつか自然に失せてしまう衝動だとしても、現状は息を吸うのと同じくらい自然で、あらがい難い欲求であり、祓いきれない煩悩だ。

 そんな私を形作る柔い部分を、他人に知られるのは、すごく怖い。


 マイノリティを迫害する風潮もそうだけど、なにより、好きな人に軽蔑されるのが怖い。

 そんな妄想していたと知られるのが怖い。

 犬養くんを好きになればなるほど、こんな趣味を持っていることが申し訳なくて、恥ずかしくて、でもやめられなくて。

 こんな私でごめん、て強く感じる。後ろめたさ。


 曖昧な笑いで誤魔化すと、莉子ちゃんは抓んでいたポテトを唇に押し当てながら唸る。


「ユイちゃんは、あっくんの秘蔵本見て、どう思った?」

「なかなかいい趣味してるなぁ、と。自分は犬養くんの理想には程遠いけど……」

「そーじゃなくて!キモいとか思った?エロ魔人とかシチュ萌コスエッチサイテー!とか」

「まさか。年頃だし、そういう興味ない方が怖いよ。シチュ萌もコスプレもいいんじゃない?あんまり過激なのはつきあいきれないけど、妄想だけなら安いよ」

「ユイちゃんのそれも、同じことじゃない?」

「は?」

「だから、好きな子でスケベ妄想するのは自然なことじゃなーい?」

「……でも、男子が好きな女子組み敷く妄想と、女子が好きな男子が男にぐちゃどろに組み敷かれる妄想するのは、違うと思うよ。主に健全さにおいて」

「えー、かわんないと思うんだけどなー」


 眉間にしわを寄せて首をかしげる莉子ちゃん。シンプルな考え方に好感を覚える。

 でも、思考で理解していてもダメなのが生理的嫌悪ってやつで。それを刺激するようなことをしている自覚があるから、後ろめたさを覚えるのだ。


 みんながみんな、人とは違うということを理解して、それで認め合えるようなら、そんな素晴らしい世界はない。

 しかし現実、人は個性より横並びの強調性を無意識で望むもので、妬み嫉みは当然のようにはびこっている。ままならない世だ。


 多分、きっと、犬養くんも、莉子ちゃんと同じような考えを持っているだろうことは、わかる。彼は誰も貶めない。たった数か月の付き合いだけど、それに関しては確信があった。

 それでも嫌われたくないと不安に思うのが乙女心であり、臆病な私が慎重にならざるをえない面倒くさいところであり。


「まあ、黙ってるって、約束したもんね。アタシの口からは言わないよ」

「ごめんね、ありがとう」


 しぶしぶ納得してくれた金色の小さな頭を撫でる。

 ふわふわの髪の毛は、猫の腹毛のようにやわらかかった。





 * * *


 それからどうなったかと言うと。


 結論から言おう。バレタ。


 自滅でも莉子ちゃん経由でもない。

 バレた原因で犯人は、長船くんだった。


 あの時、ファーストフード店に着いた時点で莉子ちゃんは、「駅でユイちゃんと遭遇。今からお茶!」と写真と一緒にラインに投下したらしい。スマホいじってたのはそれだった。

 で、帰宅に同じ駅を利用する長船くんは、たまたま駅中にいて、莉子ちゃん目当てに来店。

 私たちの話を、私の死角になる席で、全部聞いていたと。

 そして犬養くんに全部言ったと。

 「お前の彼女、腐女子だってよ」と。

 「お前受けで妄想してるらしいぜ」と……。


 まぁ、地に崩れ落ちたよね。

 まさにorz。頭を抱えた。

 なんてことをしてくれたんだ長船くん冗談は料理の腕だけにしとけよ!?


 気になる犬養くんの反応は、しかし、やっぱり、犬養くんだった。

 うずくまる私の前にしゃがんで、たすたす頭を撫でてくる。


「別に、いーんじゃね。俺だって妄想くらいするし」

「でも……気持ち悪いでしょ……犬養くんで、してたんだよ。男同士で、組み敷かれる側で。てか、してるんだよ……」

「そりゃー愉快でもないけど……。布川は、俺がほんとにそうなればいいって思ってるわけじゃないんだろ?」

「妄想はあくまで妄想です。リアルなら同意と愛がなければ!」

「だろ。だったらいいんじゃないの。それが布川の好きなものなんだろ。変わってよーが気にしないよ。いや、ちょっと気になる」

「うぇっ!?えっどっち!?」

「俺は、布川にそういうことしたくて、その……エロい妄想とかしてるんだけど」

「アッハイ」


 思わず身を起こし、正座になる。

 ぼそぼそ話しながら、ちょっと赤くなった顔をそむける犬養くんテラかわいい。じゃない。ここは真面目な場面だ。


「布川もさ、俺でそういう妄想してくれるってことはさ。そんだけ俺のこと考えてるわけだろ?

 それってさ、俺、すっげー愛されてるってことじゃん」


 照れながら言われたことは、私の顔を爆発させるのに十分な爆弾だった。続けられた言葉もマズかった。


「ついでに、そういう風に攻められたいって思ってるわけだろ?どんな攻められ方が好きなのか知りたい。参考にするから」


 まぁ、絶句だよね!


 お互い顔を真っ赤にして黙りこくる。

 あぁ……。あぁ、なんてことだ。


 私の彼氏が、こんなにもかわいくて、優しくて、イイ男で、心臓がくるしい。


「……………私、犬養くん好きになって、よかった」

「えっ!?」


 これから少しずつ、私を曝け出していくから、覚悟しててね!






 * * *


「ところでどういうのが好きなの?」

「私、初めてときめきを覚えたのが『大岡●前』だったんだよね」

「えっ」

「忠相と伊織は理想のブロマンス。身分差を越えた友情最高。だから、時代物が主なジャンルかな。

 幕末戦国うまい。青春群像、主従、下剋上こそ至高。三国志は読破した。今は水滸伝読んでる。いいよね、義兄弟。金蘭の契」

「つまり?」

「肉体関係だけが全てというわけでなく、精神の繋がりを重点的に行き過ぎた友情の中で覚える抑圧された肉欲がたぎる。男女ではあまりできないから」

「……」

「あんまり参考にならなかったでしょ?」



『●岡越前』はやばい。



2015.12.17 改稿。



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