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君には善行が足りない  作者: 沢田爽
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僕が知っている大人

善行という言葉を、大人はよく口にする。

いや、大人はよく口にする、という表現には、語弊があった。

まだ高校一年生で、カテゴリーで分けると子供に属している僕がよく知っている大人は、少なくとも「彼」しかいないのだから、大人が皆そうなのだと断定するのはよくない。むしろ、親や教師、液晶を通して見る大人はそんな事を滅多に口にしていないような気がしてきた。

しかし、僕が一番よく知っている大人、遊坂ハルトは、執拗に善行という言葉を僕へと押し付けていた。

いや、押し付けている。

「だからさ、アサヒ君よ、俺が思うにお前には善行が足りないんだよ。だからお前はモテない」

遊坂ハルトは、自分の席に着いてぼんやりと外を眺めている僕の机に頬杖をつき、にやりと笑ってそう言った。

そんな事を言っている時点で自分にも道徳心が足りないということを、彼は分かっているのだろうか。

「ハルトさん、僕は別にモテなくてもいいです」

面倒だからそう返して、再びハルトへと移した視線を、窓の外へと移す。

彼はそんな僕を見て小さくため息をつくと、

「窓の外に何かあるの?」

と聞いた。

鈍感にも程がある。なぜ会話を拒絶している事を僕のこの行動で察することが出来ないのだろうか。

無視を続けて数十秒、彼は面白くない、といったふうなふて腐れた表情をして、僕の机から離れた。

そして暇になったのか、しずかな教室の中をうろうろと歩き回る。

言い忘れていたが、ここは授業中の教室だ。

しかし、必死に白い線を黒板へと走らせている教師も、必死にそれをノートへと移している生徒も、誰ひとりとしてハルトを気にもとめず、空気であるかのように扱い、そして無視している。

いや、空気であるかのように、ではなく、彼は本当に「空気そのもの」なのだ。

因みにその空気である彼を見ることができるのは、今の所、僕、ただ一人である。

彼は、五年前に死んだ、いわば、この教室の浮遊霊なのだから。

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