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「あー、疲れた。
なんだよ春休みテストって意味不明すぎるだろ」
まだ体に制服が馴染んでいない少年がありきたりな"学生の文句"を言った。
「しょーがねーじゃん、うちって一応進学校だし?」
これまたありきたりな文句を彼の友人が、返したが少年は特に気にせずに話を続けた。
「大樹さぁ、部活どうするよ。俺的には、緩い感じのとこ入ってさーダラッとした青春をエンジョイしたいんだけど。」
ダラッとした青春ってなんだと思いながら少年の友人ー大樹は答えた。
「文化系のとこ入ろうと思っているんだけど。
映画鑑賞部とか良さげだと思うぜ」
「おっいいな。
映画見放題じゃ~ん俺そこにしようかなー」
「・・・・勇気は運動できるんだから、そっちのほう入ればいいじゃん。」
「やだ。めんどくさい」
この友人には、本当に呆れる。
勇気は本当に運動ができるし、勉強もそこそこ、明るい性格と整った顔をしているため、中学の時から女子にもモテる。
なんで自分なんかと一緒にいるのか、大樹にはさっぱりだった。
「お前はもっと本気だして、生きろよ。」
「やだ~大樹君たら~俺はいつでも本気よ~?」
「嘘つけ」
「ひでぇ!」
いつも通りの帰り道、いつもの友人とのくだらない会話、どこかの家の夕食の匂い、
平和だなぁと大樹は思った。
ただ同時に退屈だなとも、たしかに思った。
思ったが、この日常を捨てられほど嫌ってはいなかったし、むしろ愛してさえいたかもしれない。
まぁ、この日常が当たり前としていた、彼は多分一生気づかないことだったのだけれど。
一瞬にして退屈な愛すべき日常が壊れた。
彼らの足元からは、不思議な色合いの光が薄い布のようになって彼を覆い始めた。
彼はその光の布を破くように腕を動かしたが、布の勢いはそれ以上だった。
布の最後の隙間から、彼は黒い光の布がうごめいたのが見えた。
彼の姿が見えなくなった道には繭のようなものがあるだけだった。