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天魔少女  作者: MilkLover
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ミルクみたいに真っ白な

 見ろよ、あの髪真っ白だぜ。

 それに瞳は血みたいに真っ赤よ。

 肌は死人みたいに白くて気味が悪いよな。

 きっと悪魔の子だわ。

 殺そう。

 そうだ、殺せ。

 殺せころせコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ


****************************************

「また、あの夢」

 少女は、ガーランドルフ孤児院の自室で目を覚ました。寝起きは最悪だ。

「あ、おはよう。だいぶうなされてたけど、怖い夢でも見た?」

 ルームメイトのアイリが下のベットからそう呼びかけてきた。

「うん、ちょっとね」

 アイリは空気を読むのがうまい。二段ベットの上に寝ている少女が眠っているか起きているか、空気を読むことで簡単にわかってしまう。わかりたくなくても(・・・・・・・・・)

空気は、風は、目の見えないアイリにとって目であり、また、格好の話し相手だ。風の便り、という言葉も、彼女の前では文字通りの意味になってしまう。

 そんなアイリが少女を理解し、気遣うように、少女もまた、アイリのよき理解者であり、目であり、話し相手だ。

「もし、夜中怖い夢で起きちゃったときは、私のベットに潜り込んで来るといいわ。私は風の次にあなたが好きだから。」

「エルザ先生のことは?」

「ゴキブリとドブネズミの次に嫌いよ」

 少女とアイリは顔を見合わせて笑った。少女はアイリといると怖いことがあってもこんな風にすぐ笑って忘れることができる。だからアイリは好きだ。

ドンドンドン。

誰かが荒々しくドアをノックした。

「アイリ、ヴァイス、朝っぱらからうるさいですよ」

 エルザ先生だ。噂をすればなんとやら。

「ごめんなさいエルザ先生!」

「叫ぶな!近所迷惑よ」

 少女は、つい、それはあなたもでしょ、と言いかけたがタダでさえ機嫌の悪いエルザ先生に言っても無駄だと気づき、口をつぐんだ。

「あなたも何か言ったら? ヴァイス」

「あ、はい。朝から申し訳ありませんでした、エルザ先生」

 ヴァイス、とは少女の名前ではない。彼女が真っ白なことに由来する蔑称だ。エルザ先生は孤児院の少年少女に目立つ特徴があると、蔑称としか言い様のない“あだ名”を付ける癖がある。背が低いからチビ、高いからノッポ、痩せているからガリ、太っているからポッチャリ、とか安直なやつだ。かつてアイリのことも盲目(ブラインドと呼んでいたが、少女がエルザ先生を説き伏せ、やめさせた。

「朝から気分が悪いわ。罰としてアイリとヴァイスは朝食抜きよ」

「そんなー。そんなのないわミセス・エリザベート」

「先生に対して何て口のききかたですか!」

「ご、ごめんなさい!ほら、アイリも」

「申し訳ありませんでしたー」


****************************************

 朝食抜きになった二人は厨房の冷蔵庫から牛乳を頂戴していた。少しは腹の足しになるだろう、というアイリの提案だ。

「ちょーっとうるさくしたくらいで朝食抜きー、とか絶対エルザ先生牛乳足りてないよね」

 アイリは牛乳瓶から口を離して少女に同意を求めた。

「朝食抜き、ってのはちょっとやりすぎだよね。あとアイリは牛乳飲みすぎ。もう3本目でしょ。お腹壊すよ?」

 確かに、3本も飲めばお腹いっぱいになるかもしれない。たとえ朝食を食べていなくても。

少女はもう1本くらいくすねてくればよかった、と少し後悔した。

「だって牛乳大好きなんだもん」

 数十分後。

「ううー、お腹痛い」

「だから言ったのに。6本も飲むから」

 結局、アイリはあのあとも牛乳を飲み続けた。結果がこのざまである。

「もう我慢できないわ。ト、トイレ!」

「あ、走ると危ないよアイリ!」

どん。勢いよく走ったアイリは廊下の角で誰かとぶつかってしまった。バランスを崩して尻餅をつく。走ると風を切るので、アイリはうまく空気を読んで周りの様子を知るのが難しくなるのだ。

「ほら言わんこっちゃない!大丈夫ですか?」

「うん、ありがと大丈夫よ!」

 アイリがそう言って立ち上がる。

「お前じゃない!」

 ぽか、と少女がアイリの頭を叩く。

「痛っ!」

 アイリにぶつかった誰かは、バランスを崩したが倒れることはなく、右足を一歩引くにとどめた。

「あ、僕なら大丈夫」

 少女はそのぶつかった誰かが誰なのか、分からなかった。少なくても昨日までにガーランドルフ孤児院に入ってきた子供ではない。見た目は大体アイリや少女と同年代の、冴えない少年といったところだった。

 しかし彼の髪も瞳も肌も、アイリやエルザ先生、他の子供たちのように普通の色では無かった。髪は金でも茶でも赤でもなく、夜の空をそのまま貼り付けたような綺麗な黒で、瞳はサファイヤみたいなアイリの瞳も好きだけど、より幻想的な魅惑を持ったオニキスのよう。肌は少し、黄色がかっていた。

「あの、どなたですか?」

 少女は少年に問うた。少年は笑顔で答える。

「今日からこの孤児院にお世話になることになりました。ミナトです。よろしく」

 少年は少女に右手を差し出す。握手を求めているのだろうか。

「よ、よろしく」

 恐る恐る少年へと手を伸ばす。少年は少女の白い左手を右手で受け取ると、ひざまずいてキスをした。

「へ?」

「じゃあ、またねお姫様」

 少年は足速に去っていった。アイリはいつの間にかいないけどトイレに行ったんだろう。

 少女はなんとは無しに頬に手を当てた。熱い。きっと顔は真っ赤だ。肌が白いからすごく目立つはずだ。そうしたら今度はヴァイスじゃなくて(ロートなんて呼ばれてしまう。

少女は部屋に戻って二段ベットの上段に潜り込んだ。


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