Sさん
私はひたすら学校に向かって走った。
英語教師の彼と出会った時に感じた、「恋」と言う名の名前しかわからない不思議な感情を胸に抱きながら。
「はぁ……はぁ……」
おそらく5分ほどの時間、走っていただろう。
ここが私が通う中学、市立x中学校だ。
大勢の新入生で、運動場が隠れるほどに賑わっている。
他の生徒に紛れながら、校舎内に入ってみる。
自身の教室に入ろうと、「北館」という札のついた建物に入ってみた。
階段を上ろうとした、その瞬間……。
「あ、Aさんじゃないですか。」
今朝会った私の大好きな人だった。
駄目だ、膝が震えて、体が動かないよ。
すると彼は、私に優しく、こう告げた。
「とりあえず……教室まで行こうか?」
―――――歩く事、数分
「あ……あの、連れて来て下さってありがとうございました。」
「いやいや、教師として当然の事をしたまでです。さぁ、早く教室に入って、友達に挨拶しておいで。」
はい。
そう返事をしようとしたが、そこで私の考えは急激に変わった。
そうそう、彼に聞くべき事があったんだ。
「あの……名前を、聞いても?」
「あぁ、そういえばまだ名乗っていなかったね。」
彼はゆっくりと口を開いた。
「英語教師、Sです。」