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魔法少女は信じちゃいけない  作者: 夜光始世
第一章★橋間彰宏
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橋間彰宏6

マギダンに行くのが深夜になるとき、たとえば二時三時ぐらいに出るときは、さすがにハイジんとこに泊まるって言い訳はできない。

 そういうときはこっそり忍び出るのだ。

 一応母さんが見に来たときのために、「今外出中。心配しないで」って紙をベッドの上に置いてるけど、うちの両親は眠りが深いので気づかれたことはない。マジで空き巣とか入り放題なんじゃないかという気がする。うちセコム入ってたっけ?

 一方、マギダンの裏手はセキュリティ完備だ。暗証番号を押して戸を開けると、すでにチームの主要メンバーと験也さんが揃っていた。あとはXギークの安井堅悟待ちだ。

「橋間の召集だから来たけど、Xギークってなんなの?」

 三森の問いに、そういえばハイジしか知らなかったっけと気づく。

「あー、情報屋みたいな。それ以上のこともするけど」

「そうそう、リーダーの兵賀さんって人が凄いんだよねぇ。超チート人間で」

「いかさま? ずるい奴なの?」

 三森が不正の匂いに反応すると、ハイジは苦笑して違う違うと首を振った。

「俗語だよ。反則なぐらい凄いってこと。あの人頭も良くて顔も良くて運動神経――はどうなんだろ、わかんないけど人望もあって――」

「橋間とハイジもそうでしょ」

「橋間はともかく俺はねぇ……まぁそう見せるのが上手いだけだよ。できるって言っても、平均よりは上って程度。兵賀さんは違う、飛び抜けてんの。――そうだな、例えば」

 ソファに寄りかかり、ハイジは周りを見渡した。

「俺たちがこうやって話してるのを兵賀さんが近くで見てるとするでしょぉ。予備知識はなぁんもない。それでもあの人は俺たちの関係性とか過去とか自分でも意識してなかった感情とかを読みとることができる。兵賀さんにわからないことはないんだぁ。俺が知る限り神様に一番近い人間だよ」

 ハイジの説明はかなり的確だった。三森は首を傾げているが、確かに兵賀は人間離れした能力の持ち主なのだ。あれで周りのことなんか知らんという性格なら楽だったのかもしれないが、なまじっか繊細に生まれついたばかりに色々苦労している。物事が見えすぎるってのも問題なんだよなぁ。

 兵賀が善悪どちら側につく人間なのか見極めようとハイジに質問を繰り返す三森と違い、圷と遠藤は興味なさげにあらぬ方向を向いている。

 圷は多分元々知ってたんだろうな。遠藤は、マジで興味ないっぽい。

「遠藤、久しぶり」

 声をかけると、じっと俺を見つめ、黙って頷いた。

 遠藤美木は、俺たちのチーム中心メンバーの中では珍しく、わかりやすい不良ルックの強面だ。

 逆立てた金髪に切れ長の目、ドクロがプリンとされたパーカーにだぼついたズボン。喧嘩の時には尖った犬歯を最大限有効活用し近づいた相手の肉を噛みちぎることから、「狂犬」というあだ名がついた。

 でも普段はおとなしくてあんま喋んねぇ。邪魔にならないように隅っこで雑誌見てたり、ぼーっとしてたりする。最近はそもそもマギダンに来さえしなかったので、存在を忘れかけていた。

「お前、瀬田さんとこにいたのか?」

 尋ねると、またこくりと頷く。顔は怖いけど仕草はなんとなく可愛い。

 もうちょっと打ち解けたら弟みたいになんねーかなーと兄弟のいない俺はこっそりもくろんでいるのだが、遠藤は始めから瀬田さんラブなので難かしいだろう。

 マギダンに来るのだって瀬田さんがそう命令したからなのだ。遠藤は基本的に瀬田さんしか見てない。それは瀬田さんが俺に遠藤を紹介した時、すぐにわかった。

 初対面の時の遠藤はめっちゃ警戒してて人見知り半端なくて、俺もまだよく遠藤の性格わかってなかったからこいつ超キレてるこえーとか思ってたけど、今ならわかる。あれは多分怯えも入っていた。

「面倒見てあげて、橋間」

 そう言うと、瀬田さんは遠藤を置いてそっけなく去っていった。

 相変わらずクールな人だと思いながら遠藤を見やると、我慢するようにぎゅっと目を瞑っているのがなんだか気の毒になってしまって、それ瞬間俺は、あぁ面倒見てやろう、と心に決めたのだった。

「お前甘いの好きだっけ。ジュース飲む?」

「……ん」

 少しだけ嬉しそうにする遠藤に、これは餌付けいけるかもしれんと席を立って勝手にカウンターの奥の冷蔵庫を開ける。何故なら験也さんはハイジと三森の会話に加わっていてあてにできなかったのだ。

「Xギークなんて初めて聞いたな、最近できたのか?」

「最近っていつまでのことなんかわかんないですよ~。兵賀さん、最初は金取ってなかったし。今みたいな形――つまり会社みたいになったのは、三年前ぐらいかなぁ」

「へぇ。さっきの話聞いてると、相当凄い奴らしいな。一度会ってみたいもんだ」

「私も」

「事務所行けば会えますよぉ。依頼ないのに行く人あんまいないけど」

「性格悪いのか?」

「そうじゃなくてぇ」

 ハイジはゆるりと笑う。

「だれだって全部見透かされるのは嫌でしょ」

 験也さんはちょっとつまって、ちゃかすように言った。

「占い師にでもなればいいんじゃないか?」

「洒落になんないんですよね、それ。兵賀さんが言ったことぜぇんぶ当たっちゃうから。だから兵賀さんは受ける依頼は選ぶんですよ。なるべく部下にやらせるし」 

「そうなんだ。微妙だけど、悪い人じゃなさそうだね」

 三森の中で蹴りがついたようだった。三森の判断基準は、『良い』か『悪い』かしかない。兵賀はとりあえず合格のようだ。

 グラスについだオレンジジュースを遠藤の前に置くと、「ありがとう」と所在なさげにお礼を言い、両手に持って飲みだした。

 俺は適当にビールの缶を持ってくる。ほかの奴らの分はない。だってみんなもう酒飲んでるしな。遠藤の前にも酒っぽい液体が入ったグラスが置かれていたが、こいつは酒が飲めないのだ。

 スプリングの効いたソファに沈みくつろいでいると、携帯が鳴った。

「こんばんはー。俺今裏口にいんだけど、どうすればいいです?」

 安井だった。今開ける、と言ってローテーブルに置いてあったリモコンを操作する。

 かしりと鳴る音で開錠を察したらしい、間髪入れず扉が開いた。

「わぁ、みんないるんだ。俺遅かった? ごめんねー」

 そのまま古着系ファッション雑誌にでも載りそうな格好をした安井が入ってくる。

 すげー珍しい形のズボンだな……あれどういうつくりになってんだ。

「依頼人は橋間くんですよね。早速値段交渉だけど」

 爽やかな笑顔で直球を投げてくる。

「三万でいい?」

「二万じゃ駄目か」

 一応三万持ってきてはいるけど。

「え~、どうしよっかなぁ」

 安井は考え込むように手を顎に当てた。

「お前眼鏡欲しいんだって? 今のやつ度が合わねぇの?」

「いや、ファッション。ロイド眼鏡ブームなんすよ俺の中で」

「ロイド?」

「丸眼鏡です」

「へぇ」

 丸眼鏡なんて古くさいイメージだけどなぁ。お洒落好きの考えることはよくわかんねぇ。

「ならさぁ、俺の知り合いの眼鏡屋に言って三割り引きさせるよぉ。どぉかな?」

「のった」

 ハイジのアシストで交渉はまとまり、安井はカウンター席に座った。

「兵賀さんじゃなくて悪いけど、ちゃんと調べてきたから安心してください」

 黒縁眼鏡のフレームをくいっと押し上げ、安井は手早く資料をテーブルの上に並べた。




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