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魔法少女は信じちゃいけない  作者: 夜光始世
第一章★橋間彰宏
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橋間彰宏2

「あーと、実は注意しなきゃならんことがあってな。まぁうちの組には問題児はいないから大丈夫とは思うが、夜遅く飲み屋で高校生らしき若者が溜まっているという報告があった。心当たりのある者はいますぐ止めるように。いいかー、二十歳まであと少しなんだぞー。たった何年か、ちっとは我慢しろよ。今はそういうことがかっこいいと思ってるか知らんが、大人になったらつきあいで嫌でも飲まなきゃならなくなる。先生は酒に弱いからそれは大変な思いをしたもんだった。

 あとなぁ、最近不良に絡まれる生徒が増えてるようだから気をつけるように。学校帰りとかだったらともかく飲み屋で絡まれたりしたら完全に自業自得だからな。学生は勉強に励むんだぞ。よし、んじゃ今日の授業は――」

 最初は聞き流していた言葉に、ヤバいかなぁとぼんやり思う。

 いつもくたびれた服を着ている担任の教師、小郷先生は、普段は適度な距離を取ってあんまり生徒に干渉してこない。けど、問題が起こりそうなギリギリでさっと予防するのが上手くて、ヤバそうなものへの嗅覚はピカ一だ。

 面倒くさがりでもあるので「最近は風邪になりやすい季節だから気をつけて」程度のことは一切言わない。小郷先生がわざわざ口に出すってことは、職員室のなかでもかなり問題になってるってことなんだろう。

 まぁその会話の中に俺とか三森の名前は含まれてないだろうけど。

 『隠れ家的な店』が売りであるマギダンには、実際隠れ家的要素があり、商売でやってる入口直通の店とは別に、酒を飲むにはうしろ暗い年齢の俺たち専用裏部屋がある。

 よっぽどの緊急事態でもなけりゃ制服のまま行くなんてことはないし、普段は俺も三森も優等生よりの爽やか青春系だからまず疑われない。

 けど、俺達のチームじゃない奴とか同じチームでも集会好きな奴とかは、誰でも入れる普通の店に行ってるから、見かけた大人に通報されることもあるんだろうな。

 マギダンにしばらく集まれなくなったのはかえって良かったかもしれない。死体事件のほとぼりが冷めたころには教師の関心も薄れてるだろ。

「橋間ぁ、俺教科書忘れちった。見してくんない?」

 チャイムが鳴って小郷先生が教室を出て行ったあと、隣の席の平田が悪びれずに言ってきた。

「いいけど……お前今日当てられる日じゃなかったっけ。大丈夫かよ」

 まぁ予習したノートがあれば問題ないんだが、あーっ!と叫んでいるところをみるとどうやら平田はノートも忘れたらしい。

「は、橋間!」

「俺昨日忙しかったから予習やってねぇよ」

「そんな~。くっ、こうなったら、委員長に……!」

 情けない声を出しながら平田は、ほんわか眼鏡の頼れる学級委員長に助けを求めに行く。

 俺はその光景を頬杖をつきながら眺め、平和だなぁと思った。

 そう、平和。平和が一番。俺はこの穏やかな空気とか楽しいやり取りが好きだ。チームに所属してるからって血に飢えてたり破壊衝動があったりするわけじゃない。

 ただ、たまーにすげぇ喧嘩したくなるだけ。

 なんつーかなぁ、この平和な日常と同じぐらい俺はあの殺伐とした非日常も愛してる。いや、その対比の仕方はおかしいな。日常と非日常って言うと日常の方がメインみたいに聞こえる。俺にとってはどっちも等価だ。笑い合う健康な学校生活も、喧嘩に明け暮れる裏の生活も。どっちも大切で、どっちにもいい仲間がいる。

 でも、どうやらその二つは相容れないものであるらしい。俺は最初学校の奴らにチームのことを隠す気はなかったんだが、ハイジにこんこんと説得されたので隠すことにした。基本他人のことには興味を示さないあいつがあそこまで真剣に言うからには、きっと大事なことなんだろう。人を傷つけない嘘なら罪悪感も感じないし、ややこしいことにはしたくない。

「いいんちょー最高! 愛してる!」

 ノートを掲げながら騒がしく委員長に抱きついているあの平田だって、もしかしたら何かとてつもない秘密を隠し持って……いや、ねぇか。

 まぁなんにせよ、完全に完璧で清廉潔白な人間なんてそうそういない。

 それでみんなが何事もなく幸せに暮らせるなら、俺が喧嘩好きで不良の真似事してることだって隠しぬいてみせるさ。

 とりあえず集会禁止の連絡回しとこう、と俺は机の下で携帯のメール画面を開いた。


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