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魔法少女は信じちゃいけない  作者: 夜光始世
第三章★桐津羽衣児
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桐津羽衣児6


「で、えーと、佐上、何の用かなぁ?」

 よく見かけはするがあまり交流のない地味男くんに向き直る。こいつと会話したことなんて数えるほどしかない。それだって挨拶とか短い連絡程度のもんだ。佐上が俺と話したがる心当たりが全くない。

 内心首を傾げていると、佐上は「たいした話じゃないんだけど」と切り出した。俺を前にしても腰の引けたところがないあたり、さすが三森の傍にいるだけはある。

「遠藤が乱闘起こしたから言っとこうと思って」

「あぁ、それねぇ。聞いてる聞いてる~。小島博次が全治二カ月の大怪我だって?」

 打撲骨折裂傷のオンパレード。よく二カ月で済んだなっていうほど全身怪我していたらしい。まぁ俺は三森の制裁でその辺の感覚麻痺しかかってるからそれほど驚かなかったが、被害者の見た目の悲惨さでは多分遠藤のが上。

 佐上は頷いて、

「やっばハイジは知ってたか。お前のことだから色々手ぇ回してるとは思うけど、今回は難しいぞ。なんか遠藤が暴れてるとこ動画に取ってた奴がいたらしくて」

「マ、ジで?」

 そりゃまずい。計画が台無しだ。

「そいつ誰かわかる?」

「森垣中二年の小原。下の名前は知らない」

「充分。ありがとぉ、佐上。助かったぁ」

 致命的なミスをするところだった。携帯とかデジカメとか今は超便利なものが沢山あるけど、便利なだけにこういう問題も出てくんだよなぁ。ネットに流されでもしようもんなら取り返しがつかない。

「後始末任せて悪いな。お前以外でこういうのできる奴いれば負担も減るんだろうけど。話はそれだけだ」

「え? 『長くかかる話』じゃなかったっけ?」

 まだ何か言うことが残っているのではないかと尋ねると、佐上はいや、と目を伏せた。

「三森に聞かせたくなかっただけ」

「あぁ、そういう……」

 確かにあいつ裏工作とかめっちゃ嫌がりそう。

 佐上、そういう気ぃ使うんだな。ただの地味男じゃないってことか。いや、地味男とかの問題じゃなくて単に――

「あのさぁ、佐上って、みもりんのこと好きなの?」

「え?」

 佐上は目を見開いて俺を見た。そんなこと聞かれるとは思ってもみなかった、って顔だ。俺は逆に驚いてたじろぐ。

「や、だってさ、いつも一緒にいるし。佐上もともと喧嘩ラブ野郎じゃないのに、結構エグい喧嘩するみもりんの近くにいるってぇ、やっぱ恋心ゆえ?とか思って」 

「あー……そっか。まぁそう見られても仕方ないよな、うん」

 なるほど、と佐上は頷く。

「違うの?」

「いや、そうかも」

 なんだそれ。

「俺、恋愛とかよくわかんないんだよな。今まで誰とも付き合ったことないし。小さい頃は好きな人いたけど、告白もできなくて、当然されることもなくて、そのうち自分はそーいうのには縁がないんだって最初から諦めるようになった。三森にだって本当は関わるはずじゃなかったんだ。あいつと俺じゃ種類が違いすぎる。でも、なんかほっとけないっつーか――ほら、三森は……あんなだろ。あいつの『正しさ』は頑な過ぎて、絶対いつか崩壊する。そのあと三森が脱け殻みたいになっちゃったり、壊れちまうのが嫌なんだ。だからその瞬間、絶対俺はあいつの横にいて壊れるのを止めようって決めてる。……そのためだけに、側にいるんだ」

 ――思わず、ほあぁ、という声が漏れた。

 これは作ってるキャラとは関係なく、俺の心からの感嘆により出てきた声だ。

 こいつは、この地味で平凡で簡単に雑踏に埋もれてしまうような男は聖人かもしれない。あれほど無茶苦茶で狂ってて要取り扱い注意な女を本気で守りたいと思ってるとは。

 しかも当の三森は佐上の気持ちに全く気付いていない。むしろ私が佐上を守ってあげなきゃとか思ってそうだ。

「佐上、お前それ恋っつうかボランティアなんじゃ?」

「まさか。そんな綺麗なもんじゃないよ。俺がしたいからしてるんだ」

 佐上は苦笑した。

「ただの自己満足だよ。本当に三森のことを考えるなら、今すぐあいつを止めてやるべきなんだ。どんな御託を並べたってあいつがやってるのは私刑(リンチ)だ。正義とは言えない。でも俺は、あいつのまっすぐな所に救われたから……どんな障害もぶち壊して、ひたすら正しくあろうとしてるあいつを見てるのが好きで、間違ってるなんて言い出せない。――だから俺は、三森と同罪だよ。直接手を下してなくても、あいつと同じ罪を背負ってる」

 自嘲するように、けれど後悔や迷いなど微塵も感じさせぬ穏やかな様子で、佐上は言った。

「恨まれる覚悟はできてるんだ」

 ――その瞬間、俺は。

 茶化してやろうとか、からかってやろうという軽い気持ちで佐上にこの話題をふったことを悔やんだ。これは俺がやっているお遊びはもちろんのこと、周りで繰り広げられてる恋愛ごっこなんかよりもっとずっと深い次元の話だ。

 こいつはきっと、三森に対する自分の気持ちを、何度も繰り返し考えて確認し続けてきた。今さら誰に何を聞かれても動揺なんかしないだろう。だから佐上に失礼なことを聞いたとは、全く思わない。そうじゃなく、ダメージを受けているのは――俺だ。

 俺は、腹に倒れそうなほど重いパンチを喰らった気分で、呆然と佐上をみつめていた。佐上の三森に対する感情は未知なるものだった。それは俺が知っていた恋じゃなく、優しさと言うには重すぎた。

 佐上は三森に対して盲目につき従ったりはしない。尽くしまくって甘やかしたりもしない。

 でも大事に大事に、本人には悟られないよう、周りを柵で囲って綿でくるんで、傷つかないよう気をつけている。

 その感情を、何と呼ぶのだろう。相手の幸せを願い自己を犠牲にできるほどの強い想いを。


 本当はもうとっくに、俺は答えを知っている。



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