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魔法少女は信じちゃいけない  作者: 夜光始世
第二章★三森綾野
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三森綾野4

 実行委員には、私と、もう一人ギャル系の明るい子が立候補してなった。中条姫。緩いウェーブがかかった髪をハニーブラウンに染め、つけまつげとマスカラ命とばかりのデカ目メイクを欠かさない。

 でも結構行事ごとは真面目にやる子だから、きっと学祭も頑張って盛り上げてくれるだろう。

 姫と仲がいい子たちが「お前ができんのかよー」とかからかい半分にやじを飛ばしてくるのに対し、「できるよバカにすんなしー!」と頬を膨らませているのが可愛い。

「姫、手先器用だから飾り付けとか作るの上手いんじゃない? 一緒に頑張ろーね!」

 手を取ってにっこり微笑んだら、「うわーんみもりんわかってくれるー!」と抱きつかれた。

 あ、良い香り。香水かな? そういえば私も、前の誕生日にお父さんに高いの貰ったんだった。大事にしまいこんでたけど、たまには使ってみるかな。

 先生が私たちを教卓の前に呼び寄せ、うぅんと唸る。

「もう一人ぐらい欲しいところだな。まぁ三森がいるなら大丈夫か? 大変な仕事だが、やりがいはあるぞ。しっかり頼む。中条、お前は宿題も忘れないように」

「はぁい」

 姫は神妙に返事した。

「鈴木、お前は去年実行委員だったよな。いろいろ教えてやれ。じゃあ実行委員は決まったとして、あとは肝心の出し物だな。もちろん兼ね合いがあるから希望通りとはいかないが、みんなで意見を出し合ってくれ」

 出し物かぁ。何がいいだろ。真理子達とも話したけど、やっぱり飲食店系が定番だよね。でもやるとしたらちょっと変わったものっていうか、みんなが驚くような工夫があるといいな。

自分でも考えを巡らせながら、姫と一緒に教壇に立って進行役をする。

 みんな悩んでるようだったけど、お化け屋敷、コスプレ喫茶、射的、焼きそば屋台と、最終的に十以上の提案が出て、ホームルームは終わった。

 わくわくした気持ちのまま解散となり、部活に向かう。

 私はわりと運動神経がいい方なので、頼まれていくつかの部活をかけもちしている。今日は確かバレー部だったな。練習試合が近いって言ってたし、チームに貢献できるように頑張ろう!





 部活に熱中してるとあっという間に時間がたつ。気づいたら七時を過ぎていた。

 特に仲良くしてる、ボーイッシュなショートカット少女のなみちゃんと自転車置き場に向かいながら、部活の興奮冷めやらぬままに会話する。

「三森、最後のスパイク凄かったよー!」

「なみちゃんもレシーブ上手くなってた! 試合、絶対勝とうね!」

「うん! あ、三森電車だっけ。遠くて大変だね。なんか最近危ないみたいだから気をつけてね。三森可愛いから心配だよ~」

「私は鍛えてるから大丈夫。なみちゃんこそ、家が近いからって油断しちゃだめだよ、なみちゃんに何かあったら私泣くからね!」

「あはは、うん、気をつける。じゃあまた明日ね」

「うん、また明日」

 手を振って別れる。マフラーにうずめたなみちゃんの鼻の頭がうっすら赤く染まっていて、もうすぐ冬だなぁと思った。

 まっすぐ家に帰り、作り置きしておいた夕食を食べてから、動きやすい服に着替えてマギダンに向かう。

 昨日はミニスカだったけど今日はスキニーのジーンズだ。転んだ時ジーンズだったら膝にかすり傷作らなかったかもなーと反省したので、これからしばらくはジーンズにすることにしたのた。

 いくらスパッツはいてるとは言えスカートは若干心許ない。でも可愛さに負けてちょくちょく着ちゃってたんだよね。せめて抗争の時は止めとこう。

 前回マギダンに集まってからまだそんなたってないのに、なんで召集かけたかというと、ノヴァヘッジ討伐の報告をしたかったからだ。別にわざわざ会ってまで知らせるようなことじゃないんだけど、最近不穏なことが続いてるし、たまにはみんなで楽しい気分になって飲めたらいいなって。

 幸い験也さんの許可も下りた。最近験也さんは瀬田さんのことで不機嫌になってたから微妙かなって思ったんだけど、元気を取り戻した恵登が口添えしてくれたみたいだ。それに験也さんは、本人いわく「若かったころやんちゃしてた」らしく、私達が着々とこの辺りを掌握しつつあるのをおもしろがってるような節がある。

ってことで、主要メンバーにはメールで召集をかけた。

 美木以外はみんな、行くよって返事してくれた。マギダンはそんなに広くないから、下位メンバーまで集めるわけにはいかないけど、ノヴァ制圧で頑張ってくれた子たちとはまた別の店で祝杯をあげよっかな。

 厚手のカーディガンを羽織って、かっちりした黒のブーツを履く。歩きなれた道は夜でも間違えたりしない。しんとした通りを抜け、マギダンの裏手に回――

「ええぇ?」

 な、なんでこの人がここに。

 マギダンの裏口は、目立たせないために暗くなっても灯りを灯さない。だから本当に傍まで近づかないと気づかなかったのだが、そこにはふんわりシフォンのワンピースをひらめかせた栗毛美少女と、ゴス系メイクにパンク系の黒っぽい格好をした黒髪美少女が立っていた。

 黒髪の子は知らないけど栗毛さんは、もしかしなくても涙夜さん……!

「あ、三森ちゃん! 久しぶりだね~」

 また会えて嬉しいなぁ、と邪気のない笑顔で涙夜さんは言う。

「アキくんいるかな?」

 アキくん? あ、橋間のことか。

「いや私も今来たばっかなんで」

「あ、ごめんね。私たち入るの邪魔しちゃってる。どうぞどうぞ~」

 ドアの前からどいて、涙夜さんはにこやかに私を見る。えーと、開けたらこの人達も入れないわけにいかないんだろうな……いいのかな、涙夜さんお嬢さんっぽいのに。

ていうかなんで来たんだろう。橋間に会いに? だよね。だけど確か、家が隣な幼馴染じゃなかったっけ。わざわざマギダンにまで来るほどの緊急事態、って感じでもないし。

よくわからないながら、まぁいいや橋間がなんとかするでしょ、とキーを打ち込んで中に入ると、橋間とハイジがすでにくつろいでいた。私の後ろに続く二人の女の子を見て驚いたように立ち上がる。

「え、涙夜?」

「えへ、来ちゃった。ごめんね、アキくん」

 涙夜さんは可愛くはにかむ。それと対照的に、黒髪の子は全く笑わず少しだけ頭を下げた。

「俺涙夜にここの場所教えたっけ……こーいうとこ来ると、おばさんが心配するぞ」

「アキくんがいるから大丈夫でしょ? 真夜中まではいるつもりないよ。迷惑なら帰るし」

 確かに今はまだ深夜じゃない。九時ぐらいだから、人によってはまだ塾に通ったりしてる。だけど外はとっくに真っ暗になってるし、涙夜さんは私と違って護身術を身につけてるわけでもなさそうだ。問題がないとは言えない。

 橋間は不思議そうに首を傾げた。

「前から思ってたんだけど、なんでお前はここに来たがってたんだ? 酒飲みたいわけじゃねぇんだろ?」

「お酒は二十歳になってから。そうじゃなくて、アキくんの違う一面を見てみたかったんだけど……あんまり変わらないねぇ」

 涙夜さんは残念そうに言う。そしてはっと後ろを振り返り、居心地悪げに立っていた黒髪の子を紹介しだした。

「あのね、この子花菱恋華ちゃんていうんだって。私の二個下なの。前にアキくんに痴漢から助けてもらったらしいよ。この店の前で会ったから、じゃあ一緒に入れてもらおっかって話してたの」

 おぉ、痴漢から救出。さすが橋間。知らないうちにかっこいいことしてるなぁ。

 二個下ってことは、恋華ちゃんは中学生か。よく見れば確かに幼い顔をしている――ような気もするけど、キツめの化粧でよくわからなかった。でも性格は悪くないんだと思う。涙夜さんのフレンドリーさに、どうすればいいのか戸惑ってる感じだ。





もう少しで山場。

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