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魔法少女は信じちゃいけない  作者: 夜光始世
第二章★三森綾野
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三森綾野1


「あら、そろそろお父さんが帰ってらっしゃる時間ね」

 時計を見上げ、お手伝いの島さんが言った。もちろん私はとっくにそのつもりで玄関に駆けだしていく準備をしている。幼稚園で描いた『かぞくのにがおえ』を握り締め、今か今かと耳をすませた。これ見せたら、喜んでもらえるかな?

 ガチャリ、と錠が開く音がするが早いか走り出し、帰ってきたお父さんの足に抱きつく。

「お父さんおかえりなさい! 今日もはんにんつかまえたの?」

 眼をきらきらさせて尋ねる私の頭を撫で、疲れた顔のお父さんは微笑んだ。

「はは、ただいま。今日はそこまでいかなかったんだよ。明後日が山場だな」

「そうなの? じゃあまた帰りおそくなる?」

「あぁ……ごめんな、綾野。まだ小さいお前と一緒にいるべきなのはわかっているんだが……」

 申し訳なさそうに言うお父さんに、私はううんと首を振った。

「だいじょうぶ、しまさんがいるもん」

 一年前にお母さんが事故で死んじゃってから、お父さんはお手伝いさんを雇い始めた。島さんはお母さんほど綺麗じゃないけど、優しくて料理も上手だから好きだ。島さんの子供はもう大人になっちゃったから、小さい子と仲良くできてうれしいって可愛がってくれる。でもお父さんは、仕事が多くて私とあんまり遊べない事を気にしてるみたいだった。

 まぁもちろん、お母さんがいない上にお父さんともあんまり会えなくて寂しいなって思う時はある。島さんは好きだけど家族じゃないもの。でも私はお父さんの仕事が立派で大事なものだってわかってるから、絶対にそんなこと言って困らせたりしない。

「いいよ、気にしないで! お父さんががんばってるおかげでみんな幸せになれるんだもんね! 私お父さん大好き!」

 にこっと満面に笑顔を浮かべ見上げると、お父さんは私を抱き上げてくれた。

「そうか。……ありがとうな。俺も綾野が大好きだよ。いつも寂しい思いをさせてすまないな」

「うぅん……あのね、私、決めたんだ」

「ん? なんだい?」

「ふふ。私、しょうらいお父さんみたいなせいぎのみかたになるよ! わるいひとたちをこらしめるの!」

 まっすぐお父さんを見つめ、決意を表明する。お父さんは嬉しそうに破顔し、私と額をくっつけた。

「おぉ、それは頼もしいな。綾野は優しくて強い子だからきっとできる。お父さん、楽しみだよ」

「うん! 私がんばってもっとつよくなるね!」

 未来の自分への期待に胸を高鳴らせながら、私はもう一度お父さんの瞳を見つめた。強く強く、誓うように。




  第二章★三森綾野




 そういえば、あれが初めて私が正義に生きるって宣言した瞬間だったなぁ。

 懐かしい記憶を思い出しながら、右手に持った鉄パイプを迷いなく振り下ろす。悲鳴を上げて倒れ伏した男どもの付近には煙草の吸い殻が転がっていた。

 いくつなのかなぁ、この子たち。中学生ぐらい? しょうがないなぁ、まだよくわかってないんだね。ちゃんと教えてあげなくちゃ。

「あのね、煙草吸うのは勝手だけど」

 私はしゃがんで、手を前に伸ばしぴくぴくさせている少年に言い聞かせた。

「道に捨てちゃ駄目だよ。私ちゃんと忠告したでしょ? しかもまだ火がついてたじゃない。もしゴミ捨て場とかに飛んでって火事になったらどうするの? また同じことしてるの見かけたら指折るからね。わかった?」

 少年は頭の傷から流れてくる血に目をしばたかせつつ、呆然と私を見上げていたが、軽くでこぴんすると必死で何回も頷いた。よし、いい子だね。中学生はおバカだけど素直だから好きだ。高校生になるとバカのくせに変な知恵つけて始末に負えない。

 今日の相手チームみたいにね。

「道草しちゃってごめーん。もう終わっちゃった?」

 聞くと、道の向こうで制裁が終わるのを待っていた佐上(さがみ)は、まだ、と首を振った。

「終了のメールは来てない。それより、その鉄パイプ持ってくのか? つーかどこから持ってきたんだ」

「え? 適当に。なんか使えるかなって。あ、今のは手加減したから見た目ほど痛くなかったと思うよ?」

「……そう」

「佐上使う?」

「あぁ、んじゃ貰う」

 佐上はあっさりと受け取った。賢明な判断だ。私はメリケンサックとか常備してるし素手でも勝てる自信はあるけど、佐上は弱いから鉄パイプぐらいないとまずいだろう。

「今日の相手ってどこだっけ」

 からから音をさせながら鉄パイプを引きずる佐上に、「ノヴァヘッジ」と答える。

「ノヴァか……えげつねぇんだよな、あそこ」

 佐上は顔をしかめる。温厚で寛容な佐上にすらそういわしめるとは、私が聞いてた以上にあくどい奴ららしい。

 ここら一帯にはいくつか不良チームが存在している。その中で一番強いのは『神国』だけど、ほかのチームをみんな従えてるわけじゃない。

 だから私は『神国』の下位メンバーと共にほかのチームと戦い、実力で従わせていくつもりなのだ。すでに二つのチームは傘下に入れて一つのチームは解体させた。比較的小さい二つのチームは話し合いだけでわかってくれて、とりあえず協定関係。

 あとはノヴァヘッジと名雲高校の奴らだけだ。

 どうしてこの地域はこんなに不良が多いんだろう。それともほかの場所もこんななのかな? 今は全国的に見て不良って少なくなってるってお父さんも言ってたのに。

 まぁあからさまに不良な格好してる人だけが『悪い奴』なわけじゃないけどね。すました顔して汚いことやってる奴は大勢いる。

 私はどんな不正義も許す気はない。法律では裁けない、裁きにくい、裁ききれない悪人を懲らしめるのが私の役目だ。

 何の罪もない善人を悪人から守るためならなんだってする。例え相果てることになろうとも。

 橋間はただ強い奴と喧嘩するのが楽しいって言って、なんかスポーツでもするみたいに正々堂々と闘って満足してる。

 でも私はそんなことのためにチームに入ったんじゃない。喧嘩なんかどうでもいいのだ。私がやっているのは『制裁』。悪を懲らしめ、正義を守ること。

 『神国』のメンバーにはカツアゲ禁止や万引き禁止を徹底させてるけど、ほかのチームにまで目を光らせるのは難しい。一刻も早く全てのチームを傘下におさめ、悪の芽をつみ取らなくちゃ。

「ノヴァはクスリ流してるって噂もあんだよな」

 佐上の言葉に、ますます闘志が高まった。

「今日遠藤がいれば良かったね。そしたらもっと早くカタがついたのに」

「あいつ瀬田さんとこだってあ――あこ、う? なんだっけ、あの小柄で地味な奴が言ってた。もともと瀬田さんがよこした助っ人だしあんまあてにしないほうがいんじゃね」

「そうだね」

 遠藤は細身だけど凄く強い。橋間が言うには、瀬田さんの命令で私たちと一緒にいるらしい。強面のわりに悪いことしたって話も聞かないから、私はどっちかというと好感を持ってる。

 でも、あいつは多分正義とか考えたりはしないんだろうな。戦うときに協力してって頼めば手伝ってくれるけど、機械的に相手をやっつけてるだけで、なんのためにやってるのかとか、全然知りたがる様子がない。

 だから遠藤のことを完全に信用はしない。信念がない奴は何するかわからないから。

「あ、わり、俺トイレ行っていいかな」

 佐上が気まずげに言った。少し先のコンビニに視線をやっている。

「いーよ。あとから合流して」

 誰しも生理現象には勝てないものだ。ぶっちゃけ佐上そんなに戦力にはならないし別にいい。

 私がひらっと手を振ると、佐上はわりーなともう一度謝り鉄パイプをその場に置いてコンビニに向かった。




男ばっかでは華やかさに欠けると思って出した三森ちゃん、結果的に一番過激なキャラになりました。

基本は明るくて優しい子なんです。これでも。

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