Another Daily -Qualia and Love- 03
ということで、ようやくプールに入る。荷物運びが既に重労働で、準備体操は必要無いぐらいの運動量だったため、準備体操は省略。むしろ荷物運びの前に準備体操が必要だった気はする。
今日は雲一つ無い、は少し言いすぎだが晴れで、絶好のプール日和だ。流れるプールにざぶんと入り、そのまま流れに沿って潜水する。
ちなみに神崎先輩は荷物番をするそうだ。楽しんでこい、と言われた。
水が冷たく、気持ち良い。10メートル程泳ぎ、息継ぎをする。息継ぎなしでここまで泳げるのは、流れるプールならではだ。
「ふう……」
華や優はさらにこの先だ。もう一度水に潜り、水を蹴り進む。
ようやく他の皆の背中が見えた。
「遅いわよ、暦!」
「誰の荷物を運んでたと思ってんですか!」
「あたしたちのよ、当然でしょ?」
何をバカな事言ってるの、と言わんばかりに俺を見る竹崎部長。
当然なのか。
「で?神崎はどうしたのよ?」
「荷物番やってます」
「そう。呼んでくるわ」
そう言うと竹崎部長はプールから上がり、荷物を置いてある場所へスタスタと歩いて行ってしまった。
女子はそれぞれ、お喋りをしている。
……俺、どうすりゃいいの?なんか、物凄い場違いな場所にいる気がして仕方がない。
「…………」
俺は無言でその横を擦り抜け、泳ぎ去った。
しばらく泳いだところで泳ぎを中断し、仰向けになりしばらく流れに身を任せる。
太陽の光に目を細めつつ、空を見る。
夏の晴れの空は、透き通るように綺麗で、そこに浮かぶ軟らかそうな真白い雲と共に俺の遠近感を狂わせる。水面にぷかぷかと浮かびながら、今ならあの空の雲もつかめるかも知れない、と思い、青空に右手をのばす。
あとちょっとで指先が届きそうで、でも本当は全然そんなことはなくて、俺ののばしたこの右手と雲との間には厳然たる距離があるわけで。
目の前に広がる青空を見ていると、脈絡の無い思考の海の中に意識を揺蕩わせたまま、何時までも流されていくのも悪くないかな、等と思ってしまう。
そのままぼんやりしていると、
「暦君?」
「──ッ!? うわっぷっ!?」
「だ、大丈夫!?」
「な、なんとか……」
突然優が現われた。びっくりして溺れかけてしまった。危ねぇ。
「それはそうと、どうしたんだ?こんなところに一人で。他の先輩達とか華は?」
「皆一緒に、さっきと同じ辺りにいるよ?」
「……そうか」
そういう事を聞きたかった訳では無いのだが。
「で、優は?」
「え?私?」
「そうだよ。何で一人だけこっちに?」
「あ〜、えっとね……。あ、もしかして私がいたら、迷惑だった?」
「いや、そんな事はないけど」
そうやって上目遣いに俺を見ながらそういう事を言わないで欲しい。破壊力抜群すぎる。
「そう、よかったぁ……」
そう言って、ホッとしたような表情を浮かべる優。その笑顔に、俺の心臓の鼓動が早くなったのが解った。




