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両親が揃って席についている。
「お父様、お母様、こんにちは」
「あ、ああ・・・」
「今日はいい天気で気持ちのいい日ですね」
「そ、そうだな」
今はまだギクシャクした関係だけれど、少しずつ良くなっていけばいい。
慌てずゆっくりと進めていこう。
私は日本式に手を合わせて「いただきます」と言った。
両親は不思議なものを見る目をこちらに向けたが何も言わなかった。
昼ごはんは鮭によく似た魚のリゾットとサラダと牛乳だった。
私のリゾットは冷めている。両親の器からは湯気が出ているのに。
思わず苦笑を漏らしリゾットを口に運んだ。
温かかったら美味しいのでしょうけど。
ふふっ。でもリゾット⋯⋯。米があるのね。
この世界には米があるんだね!! 大事なことなので二度言ってみました。
「お父様とお母様には、食事の時間は緊張する時間になってしまうかもしれませんが、わたくしはもう癇癪を起こして魔法を放ったりいたしません。
家族としてやり直させていきたいのです」
「今までしてきたことを考えてみてくれ。そんな言葉を信じられる訳が無いってことも理解してくれ。
もちろん、歩み寄れるものなら歩み寄りたいとは思うが⋯⋯無理だ」
「今すぐ信じてもらえるとは思っていません。
少しずつ時間を掛けて歩み寄れればと思っています」
母親はほとんど食べていなかったが、三人にとって緊張の時間は恙無く終わった。
私はそう思っていた。
何回目かの食事が終わったある日、母親の怯えた態度は全く変わらなかったが父親から初めて話しかけてきた。
「実はナンシーに話せていない事があるんだ」
父親は私に視線を合わせずに言った。
「本当に悪いと思うが、どうしても話せなかったことがあって⋯⋯」
母親は父親の手を握り、話すことを止めてくれと訴えかけるかのように父の腕を掴んで首を横に振っている。
ように私には見える。
背筋を伸ばし、話を聞く姿勢を見せる。
「なんでしょう?」
「⋯⋯⋯⋯実は、ナンシーには弟と妹が居るんだ」
「えっ?」
なにそれ?! ナンシーの知識の中に弟妹の存在なんかどこにもないんだけど?!
「弟妹がいると?」
「ああ、四人・・・」
「よ、四人も、ですか?!」
「⋯⋯今まで言えなくて⋯⋯」
あぁ〜⋯⋯。言えなかったのは解るよ〜⋯⋯。
解るけれども⋯⋯。
酷すぎない?!
ナンシーにいつ薄皮切り裂かれるのか、もしかしたら殺されるかもってビクビク心配しなきゃいけなかったんでしょうけれども!!
でも本当にこの親、酷くない?
ナンシーを一人ぼっちにして顔も見せず、ナンシー抜きで明るく楽しい我が家をしていたってことでしょ?
ナンシーってば不幸過ぎる⋯⋯。
「わたくし、なんてお返事すればいいのか分かりません」
「どうしても言えなかったんだ⋯⋯」
「それだけわたくしを恐れていたということなのでしょう? わたくし⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ナンシーは両親を傷つけたことがあった?
「それで今、弟妹が居るとお話になった理由はなぜでしょうか?」
「一番上の子はナンシーが通っている学園に通っているんだ」
そんなに年の近い子が居るんだ⋯⋯。
「⋯⋯⋯⋯子供たちが、今まで一緒に食事をしていたのに何故一緒に食事がとれないのかと言うんだ」
「では弟妹を紹介してください。一緒にいただきましょう」
「それはっ⋯⋯!! できない!!
子供たちの安全だけは確保したいんだ」
この父親はっ!
「弟妹を傷つけるようなことは致しません」
母親を見ると、視線が母親に向かったのが分かったのかビクッと震えて、ガタガタと震えているのに必死で首を横に振っている。
「子供たちだけは守りたいんだ! だが子供たちが寂しがるのでナンシーとの食事は勘弁してもらいたいんだ!!」
「あまりにも酷い話に返す言葉もありません。
わたくしは貴方たちの子供ではないというのですか?
⋯⋯そんな風に私を放置してきたんですね」
「放置とかそういう話ではないのだっ!」
怒り、なのだろうか? 顔を赤くしている父親を、私は冷めた目で見つめた。
「わたくし、赤ん坊の頃のことは覚えておりませんが、赤ん坊が感情のまま魔法を放ってしまうのは罪でしょうか?」
「それは⋯⋯⋯⋯」
「お母様がわたくしのことで苦労されたことは理解できます。
でも、生まれてたった数ヶ月でわたくしを放り出してしまわれたでしょう?
愛情も掛けず、躾もせず部屋に閉じ込めるのは罪だと思います」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
母親は俯いたままなんの返事もしない。
駄目だ。もう無理だ。我慢できない。
「一緒に食事をしていただいてありがとうございました。もう失礼してよろしいですか?」
あまりにもナンシーが可愛そうで涙が出そうだ。
「ま、待ってくれ。子供たちには手を出さないでくれ」
「⋯⋯⋯⋯酷いことを言うのですね。わたくしも貴方たちの子供なんですよ。
⋯⋯わたくし今までにお父様達にわざと何かをしましたでしょうか?」
この親たちにとっては当たり前の言い分なのだろうか?
「今まで弟妹たちどころか、お父様たちの気配もこの屋敷で感じたことがないのですが」
「⋯⋯⋯⋯この建物に住んでいるのはナンシーだけだ」
なにそれっ!
あまりにも衝撃の事実なんだけれど?!
「ナンシーと一緒に住むのは無理なのだ。解るだろう?!」
解りません!!
「そうやってナンシーだけをっ! いえ、⋯⋯失礼いたします」
ちょっと感情が爆発しちゃって魔力の制御が甘くなり、溢れそうになってしまったので私は慌てて親たちが見えないところへと避難した。
来週の月曜日、21:20分にUPいたします。




