Episode 7
僕は地図を握りしめたまま、アルデリスへと続く街道を歩いていた。
足を止めたのは、街の輪郭がはっきりと視界に入った瞬間だった。
高く伸びる塔。密集した建物群。
そして、風を受けて大きくはためく一枚の旗。
「……これが、アルデリス……」
言葉にした途端、胸の奥がひくりと震えた。
期待……それだけじゃない。
踏み込んではいけない場所に足を向けているような、微かな警戒心。
街の入口へ近づくにつれ、足裏の感触が変わる。
土は消え、石畳が現れた。
道の両脇には商店、簡易的な広場、人、人、人。
そして……剣。鎧。杖。
傷の残る刃、使い込まれた防具。
向けられる視線は一瞬だけ。だが鋭い。
値踏みされている、と直感した。
(……空気が、違う)
音も違った。
金属が触れ合う音、訓練場から漏れる怒号、魔力が弾けるような違和感。
この街は、休んでいない。
「おや。初めてかい?」
声に振り向くと、黒いローブの男が立っていた。
視線が絡んだ瞬間、背筋がわずかに強張る。
「え、はい……」
男は街の奥を一瞥し、軽く笑った。
「なら覚えておくといい。ここじゃ、強さが信用だ」
「剣も、魔法も、知恵もな。持たない者は、置いていかれる」
説明というより、忠告だった。
胸の奥が、じわりと熱を帯びる。
怖い。
けれど、それ以上に……惹かれている。
街を進むにつれ、視線の重みが増していく。
逃げ場はない。けれど、不思議と足は止まらなかった。
やがて、街の中心部。
巨大な門と塔。その中央に掲げられた、ギルドの紋章。
「……ここに、あるんだ」
地図を持つ手が、わずかに震える。
深く息を吸い、吐いた。
まだ何も始まっていない。
それなのに、心臓だけが先走っている。
……逃げるなら、今だ。
……進むなら、ここからだ。
僕は石畳を踏みしめ、一歩を踏み出した。
……アルデリス。
この街で、僕は試される。




