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蒼航の少年  作者: さらだ
6/13

Episode 5


蒼空は村の入口で足を止め、リナと向き合った。

夕方の風が二人の間を通り抜け、草木が静かに揺れる。

リナはいつものように優しく微笑んでいた。

けれど蒼空は、その視線をまっすぐ受け止められず、少しだけ目を伏せる。

「……リナ。ありがとう。本当に、ありがとう」

「どうしたの?」

リナは少し驚いたように首をかしげ、すぐに柔らかく笑った。

「君がここに来てくれて、色々教えてくれて……助かったんだ」

言葉を選びながら、蒼空は続ける。

「一人だったら、きっと何も分からないままだった」

「私はただ、困ってる人を放っておけなかっただけだよ」

リナはそう言って肩をすくめる。

けれど、その笑顔の奥に、ほんのわずかな寂しさが滲んでいた。

蒼空は一度、深く息を吐く。

そして、逃げずに言葉を口にした。

「……僕、帰らなきゃいけない場所があるんだ」

「帰る……場所?」

リナの目が、少しだけ鋭くなる。

「うん。大切なものが、そこにある」

蒼空は視線を上げ、はっきりと言った。

「理由は……ごめん、言えない。でも」

一瞬の沈黙。

「君がくれた時間も、この世界で見たものも、忘れない」

「それだけは、約束する」

リナはしばらく蒼空を見つめていたが、やがて静かに微笑んだ。

「……そっか」

「無理に聞いたりはしないよ。君が言わないって決めたなら」

その言葉に、蒼空の胸が少しだけ軽くなる。

「でもね」

リナは一歩近づき、真っ直ぐに言った。

「君のことは、私が覚えてる。絶対に忘れない」

「……ありがとう」

蒼空は小さく頷いた。

ふと、リナが思い出したように尋ねる。

「ねえ、君の名前は?」

「蒼空……ソラ、っていう」

「ソラ……」

リナはその名を口の中で転がすようにして、くすっと笑う。

「いい名前だね。今にも空へ飛んでいきそう」

「そうかな……」

思わず、蒼空の口元も緩んだ。

リナは一歩下がり、少しだけ真剣な表情になる。

「そうだ。これから先、この辺りには大きな町があるの」

「そこには有名なギルドがあって……もしソラが何かを探すなら、きっと力になってくれる人がいる」

「ギルド……」

蒼空はその言葉を心に刻む。

「ありがとう。覚えておく」

「気をつけてね、ソラ」

リナは軽く手を振りながら、穏やかに言った。

「君が選んだ道が、ちゃんと君を前に進ませてくれますように」

蒼空は一度だけ振り返り、同じように手を振る。

「……また、会おう」

そうしてソラは、迷いを振り切るように一歩踏み出し、村を後にした。

背中に残る温かさを、確かに感じながら。

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