Episode 2
その日の夜、僕は白い光に包まれた。
白い光が消えた瞬間、足元の感覚が失われ、体がふわりと浮き上がるような不安定な感覚に襲われた。
次の瞬間、どんと大地に落ちる感触と共に、僕は見たこともない草原に倒れ込んでいた。
冷たい風が頬を撫で、知らない草の匂いが鼻をくすぐる。
目を開けた瞬間、信じられない景色が広がっていた。
空は、地球のそれよりも深い青に染まり、どこまでも広がっている。
けれど、胸の奥には冷たい恐怖が湧き上がった。
(ここは……どこだ?)
足を動かそうとすると、全身が硬直し、まるで体の重さが倍になったかのように感じる。
周囲には、見たこともない奇妙な草や花が生い茂り、空気までもが違っていた。
草は、どこか生き物のようにざわざわと揺れ、風が吹くたびに、まるで地面がうごめいているかのような錯覚を覚える。
息を吸うと、周りの風すら微かに震えているような気がした。
(……気のせい?)
でも確かに、どこかから僕を見ているような、何かの気配が感じられる。
周りを見渡すと、風に揺れる木々、小川の水面が光を反射してキラキラと瞬いている。
どこを見ても美しい風景なのに、どうしても心が落ち着かない。
胸の奥では、恐怖と好奇心が入り混じった感情が渦巻いていた。
(怖い……でも、少し……面白いかもしれない……?)
その瞬間、草むらがざわつき、小さな音が耳に届いた。
草の陰から、緑色の何かがもぞもぞと動き出す。
小さな茎の体を揺らしながら、僕の足元に向かって全力で突進してくる。
(え、なにこれ!?)
驚きとともに飛び退こうとするけれど、その生き物は思いのほか優しく、僕の足元に飛びついてきた。
まるで「僕に触れたい!」と言わんばかりに、一生懸命に体を揺らしている。
最初は心臓がバクバクしていたけれど、痛みはなく、力強さもない。
ただ、何かを伝えようとしている、そんな気がした。
(この生き物、怖がらせようとしてるんじゃなくて……ただ、僕と触れたかっただけなんだ……)
気づけば、周囲の空気がわずかに震え、僕の体にも微かな力が流れているのを感じた。
この世界のすべてが、何かしらの意志を持って動いている――そんなことを、ぼんやりと思った。
その時、突然、背後から声が聞こえた。
「大丈夫?」
振り向くと、見知らぬ少女が立っていた。
金色の髪が風に揺れ、瞳は深い森のような緑色だった。
手には小さな杖を握りしめており、優しくも力強い眼差しで僕を見つめていた。
「怖いのはわかるけど、逃げなくていいよ」
その言葉は、まるで魔法のように僕の緊張をほぐしていく。
少女の笑顔が、まるでこの不思議な世界の中で唯一の安らぎのように感じられた。
そして、こうして僕の異世界での冒険は、まだ名前も知らない誰かとの出会いから始まるのだった。




