Episode 12
ざわめきが、少しずつ広がっていく。
「……あんな反応、初めて見たぞ」
「水晶、まだ光ってないか……?」
視線が集まるのを感じ、居心地の悪さに肩がすくむ。
(やっぱり……何か変だったんだ)
受付係は一度、周囲に向かって軽く手を上げた。
「皆さん、少し静かにしてください」
その声は強くないのに、場が落ち着く。
彼女は水晶球の状態を確認し、記録用紙に何かを書き加えた。
「測定は終了しています。危険な反応ではありません」
そう告げてから、こちらに向き直る。
「お疲れさまでした。念のため、いくつか追加で確認しますね」
ギルドの広間の一角、薄暗い光の下で、受付係は手元の薄い金属板を手に取った。
手のひらに収まる長方形の板は、厚さ1〜2mmほどの軽い合金製で、表面には細かい紋様が刻まれている。
刻印のように16個の属性が並んでいる。
・水
・火
・土
・光
・闇
・氷
・雷
・木
・風
・毒
・鋼
・霧
・時
・幻影
・岩石
・流星
受付係は僕の目を見て、落ち着いた声で説明を始めた。
「まず、ギルドでは魔力の性質を16種類の属性に分類しています。
それぞれ特徴があり、扱い方も少しずつ異なります」
彼女は板を指さし、一つずつ丁寧に解説した。
「水は流動性、火は熱と爆発力、土は安定性、光は浄化や回復、闇は潜在力の増幅に関わります。
氷は冷却や制御、雷は瞬発力、木は成長や回復、風は運動性や移動力に関係します」
「毒や霧は環境操作や持続ダメージ、鋼は防御強化、時は時間や速度の操作、幻影は幻覚や錯覚に関わります。
岩石は耐久力や攻撃の補助、流星は衝撃や重力的な力と考えてください」
僕は少し緊張しながらもうなずいた。
「では、実際に魔力測定を行います。落ち着いてくださいね」
受付係が水晶球の横に板をかざすと、刻印が淡く光り始める。
手のひらに収まる金属板が微かに振動し、光が水晶球に伝わる。
僕が板に手をかざすと、球の奥で澄んだ青緑の光が揺らめき始めた。
周囲の職員たちは息を詰め、静まり返る。
光は小さく揺れながら、徐々に強くなる。
(……これは、なんだ……?)
受付係は落ち着いた口調で、結果を口にした。
「……危険はありません」
微かに頷きながら、彼女は説明を続けた。
「光の揺れ方や振動の安定性から判断すると、周囲への暴発の可能性は低いと分かります。
ですが、魔力量が非常に高いため、扱いには十分注意してください」
周囲の職員たちも、青緑の光に視線を奪われて静まり返る。
そのとき、受付係がかざしていた金属板をひっくり返した。
「……風?」
受付係の声が静かに漏れた。
「この反応……あなたは風属性ですね」
その言葉を聞いた瞬間、僕の中で何かがはっきりとした。
「風……?」
受付係は板を再度見ながら、頷く。
「はい。あなたの魔力は風に強く反応しています。風属性です」
周囲の職員たちも、一斉にこちらに視線を向ける。
リオンの顔に一瞬、興味深そうな表情が浮かんだ。
「風……」
その言葉が頭の中でぐるぐる回る。
「そうか、僕は……」
思わず呟くように言葉がこぼれる。
受付係は微笑みながら、言葉を続ける。
「風は、運動性や移動力に関わる属性です。あなたの魔力は、風を使った移動や、環境の変化を起こす力に優れているかもしれませんね」
その説明に、僕は少し驚いた。
「でも……まだ使いこなせるかどうか分からない」
「心配いりません。ギルドでの訓練を通じて、少しずつ使い方を覚えていけば大丈夫です」
彼女は優しく微笑み、再び板を僕に向ける。
「これで仮登録は完了です。風属性の力を、どう活かすかはこれからのあなた次第ですね」
僕はその言葉に、少しだけ胸が高鳴るのを感じた。
自分の力が分かること、そしてこれからどんなことができるのか、どんな風が吹くのかが、少し楽しみになった。
そんな時、少し離れた場所で、リオンが腕を組み、じっとこちらを見ていた。 「……なるほどな」 小さく感心した声を残し、視線をそらす。
水晶球の淡い青緑は、まだかすかに光を残しており、見ているだけで心臓の奥がざわつくような不思議な感覚を与えていた。




