Episode 11
訓練場の中央に引かれた白線の前で、僕は立ち止まった。
床はよく整備されていて、足裏に伝わる感触も安定している。
「では、あの標識まで走ってください」
受付係の声は落ち着いていた。
「速さは問いません。姿勢と動きを見ます」
「……はい」
深呼吸をひとつして、地面を蹴る。
特別速いわけでもなく、遅くもない。
息も乱れず、視界も揺れなかった。
「はい、そこまでで大丈夫です」
止まって振り返ると、受付係はすでに記録を取っている。
「次はジャンプを」
言われた通りに跳び、着地する。
一瞬だけ体が揺れたが、すぐに立て直した。
「……問題ありませんね」
その言葉に、胸の奥で小さく息をつく。
(やっぱり……僕は普通だ……)
「では、次に進みます」
促されて訓練場の奥へ向かうと、台座の上に水晶球が置かれていた。
淡く光るそれを見て、自然と緊張が戻ってくる。
「次は、魔力の確認です。触れるだけで大丈夫ですよ」
言われるまま、そっと手を伸ばす。
指先が水晶に触れた瞬間、
小さな光が灯った。
……が、それはすぐに強まり、球の奥で渦を巻くように広がっていく。
白だった光は、次第に澄んだ青へと変わった。
「……?」
周囲の空気が、わずかに揺れる。
床に描かれた簡易魔法陣が、淡く反応した。
「……少し、手を離してください」
受付係の声に、僕は慌てて手を引いた。
水晶球は、しばらく青い光を残したまま、ゆっくりと静まっていく。
その場に、短い沈黙が落ちた。
「……今の、見ました?」
「え、あれ……」
訓練場の端の方から、小さな声が聞こえてくる。
誰かがざわめき、視線がこちらに集まるのを感じた。
(……なにか、まずかったのかな)
水晶球は、まだかすかに青く輝いていた。




