Episode 10
受付係は、僕から受け取った登録用紙に目を通していた。
淡々と視線を走らせていたが、ふと、あるところで手が止まる。
「……少し、よろしいですか?」
「は、はい」
彼女は用紙を指で軽く叩きながら、穏やかに問いかけた。
「出身地の欄が空白になっていますが……」
胸がきゅっと縮む。
「えっと……自分でも、はっきりとは分からなくて……」
受付係は一瞬だけ目を瞬かせたが、すぐに表情を和らげた。
「そうですか。事情があるのですね」
それ以上は踏み込まず、今度は別の欄へ視線を移す。
「それと……こちら。スキル欄も未記入ですが」
来た。
覚悟はしていたけれど、やはり緊張する。
「……正直に言うと」
僕は小さく息を吸い、言葉を選びながら続けた。
「自分に、どんなスキルがあるのか……分からないんです」
受付係は驚いた様子もなく、むしろ納得したようにうなずいた。
「なるほど。そういう方も、たまにいらっしゃいますよ」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜ける。
「ただし……………………………………………………………」
胸がどくんと鳴る。
「スキルが不明な場合、周囲への危険性や、依頼内容との適性を確認する必要があります」
なるほど、と頭の中で納得する。
確かに、何ができるか分からない人間を、いきなり依頼に出すわけにはいかない。
「そのため、登録前に 簡単な『実技テスト』を受けていただく決まりになっています」
「実技……テスト……」
「はい。基礎的な身体能力、魔力の有無などを見るだけです。
戦闘経験がなくても問題ありません」
受付係は安心させるように、ゆっくりと言葉を重ねる。
「これは審査というより、“確認”に近いものです」
少しだけ、胸の奥の緊張が和らいだ。
「もし問題がなければ、そのまま仮登録となり、後日正式登録に切り替わります」
「仮登録……」
「はい。冒険者としての第一歩、という形ですね」
僕は一瞬迷い、けれど小さくうなずいた。
(自分でも分からないまま、進むよりは……)
「……受けます。実技テスト」
受付係はほっとしたように微笑む。
「ありがとうございます。それでは、訓練場へご案内します」
そう言って、奥の扉に向かっていった。




