第7章:襲撃と鉄壁の要塞
騎士たちの宿舎が完成してから数日。
村には穏やかな時間が流れていた。
「ケンタお兄ちゃん、もっと高くしてー!」
「はいはい、順番な」
俺は村の広場で、子供たちのために作ったブランコを押していた。
余った木材で作った遊具だが、子供たちには大人気だ。
リコも近くのベンチで、ニコニコしながらその様子を見守っている。
「平和だなぁ……」
このまま、のんびりとスローライフを送る。
それが俺の願いであり、目標だった。
カンカンカンカン!!
突然、耳をつんざくような鐘の音が鳴り響いた。
警鐘だ。
「魔物だ! 魔物が来るぞー!」
見張り台からの叫び声。
広場にいた村人たちの顔色がサッと変わる。
「リコ! 子供たちを連れて集会所へ!」
「う、うん! ケンタさんは!?」
「俺は様子を見てくる!」
村の入り口へ走ると、既にガルドさんたち騎士隊が布陣していた。
「状況は!?」
「ケンタ殿か! 悪い知らせだ。オークの群れだ。数は30以上!」
「30……!?」
通常、オークは数匹で行動する魔物だ。それが30匹も集団で襲ってくるなんて、聞いたことがない。
「グルルルル……!」
森の奥から、豚のような顔をした巨漢の魔物たちが姿を現した。
手に手に粗末な棍棒や斧を持っている。
「来るぞ! 構えッ!」
ガルドさんが剣を抜く。
「突撃ぃぃぃ!!」
騎士たちが雄叫びを上げて突っ込む。
その動きは鋭かった。
先日の大浴場効果だろうか、彼らの体は軽く、剣筋は冴え渡っている。
ズバッ! ドスッ!
先頭のオークたちが次々と切り伏せられる。
しかし――
「数が多すぎる……!」
倒しても倒しても、後ろから次々と新しいオークが湧いてくる。
騎士たちは6人しかいない。多勢に無勢だ。
徐々に包囲され、じりじりと後退を余儀なくされる。
「くそっ、このままでは村に入られるぞ!」
ガルドさんの悲痛な叫び。
その時、俺は前に出た。
「ガルドさん! 一旦下がってください!」
「なっ、ケンタ殿!? 何をする気だ!」
「いいから! 全員、俺の後ろへ!」
俺の気迫に押され、騎士たちが左右に散開して下がる。
オークたちが、無防備な俺に向かって殺到する。
「グルガァァァァ!!」
目の前まで迫る醜悪な顔。
だが、俺は冷静だった。
地面に両手をつき、イメージする。
ここを、通さない。
堅牢な壁。敵を阻む堀。
「スキル【DIY】――『要塞建築』!!」
ズズズズズズズンッ!!
激しい地響きと共に、俺の目の前の地面が隆起した。
土と岩が混ざり合い、高さ3メートルの石壁となって横一文字に伸びる。
「グギャッ!?」
先頭のオークたちが壁に激突し、後続がそれに躓く。
さらに、壁の手前には深い堀が出現し、勢い余ったオークたちが次々と転落していく。
「な、なんだこれは……!?」
ガルドさんが呆然と呟く。
一瞬にして、村の入り口は難攻不落の要塞へと変貌していた。
「今です! 動きが止まった敵を各個撃破してください!」
「お、おう! 全員、反撃開始だ!」
分断され、混乱したオークたちは、もはや騎士たちの敵ではなかった。
壁の上から、あるいは堀に落ちた敵に対して、一方的な攻撃が始まる。
「ケンタ殿! 盾が割れた!」
「任せてください!」
俺は戦場を走り回り、騎士たちの装備を修復した。
ひしゃげた盾に触れれば一瞬で元通り。
刃こぼれした剣は、研ぎ澄まされた業物へと強化される。
「すげぇ! 剣が軽くなったぞ!」
「これならいくらでも戦える!」
数十分後。
最後のオークが倒れ、戦いは終わった。
「勝った……勝ったぞぉぉぉ!!」
騎士たちの勝どきが上がる。
避難していた村人たちも、恐る恐る出てきて、やがて歓喜の声を上げた。
「ケンタさん! 無事!?」
リコが泣きそうな顔で駆け寄ってくる。
俺は彼女の頭を撫でて安心させた。
「ああ、なんとかなったよ」
だが、俺の手は少し震えていた。
もし、俺がいなかったら。
もし、もっと敵が多かったら。
この平和な村は、一瞬で蹂躙されていただろう。
(ただ快適に暮らすだけじゃダメだ。守る力が要る)
俺は歓喜に沸く村の中で、一人静かに決意を固めていた。
この村を、誰にも手出しさせない最強の領地にするために。




