第5章:最高の別荘と露天風呂
翌日から、村の高台で別荘の建設が始まった。
見晴らしは最高だが、地面はデコボコで岩も多く、普通の建築なら整地だけで数週間はかかる場所だ。
「まずは基礎からだな」
俺は地面に手を触れる。
スキル【DIY】発動。
(スキャン……地形データ取得……水平化……石材加工……設置!)
ゴゴゴゴ……!
低い地鳴りと共に、邪魔な岩が砕け、地面が平らにならされていく。
さらに、砕けた岩が四角い石材へと変形し、規則正しく並んで強固な石積みの基礎が出来上がった。
「なっ……!?」
警備のために付いてきていた騎士たちが、目を剥いて絶句している。
「おい、見たか今の……」
「一瞬で整地が終わったぞ……土魔法使いでもあんな芸当はできん」
「よし、基礎は完璧だ。次は柱を立てていくぞ」
俺は騎士たちの反応を気にせず(もう慣れた)、あらかじめ森で切り出しておいた木材に手をかざした。
骨組みと壁ができると、次はアリス嬢こだわりの内装だ。
特に彼女が強く要望していたのが「ベッド」である。
「お屋敷のベッドは硬くて腰が痛くなりますの。雲のように柔らかくて、でも沈み込みすぎない、最高のベッドをお願いしますわ!」
……無茶を言う。
だが、職人としては燃える注文だ。
俺は森で採取できる「ワタゲ草」という植物に目をつけた。
そのままでは弾力が足りないが、繊維を編み込み、空気の層を作るように加工すれば……。
「できた。特製ポケットコイル(風)マットレスだ」
さらに、肌触りの良い布でカバーを作る。
試しにアリス嬢を呼んで寝転がってもらった。
「……!」
アリス嬢はベッドにダイブしたまま、動かなくなった。
「お、お嬢様?」
「……雲ですわ」
「え?」
「これは雲ですわ! ふわふわで、もちもちで……ああ、もう起き上がりたくありません……」
どうやら合格のようだ。
そして、最大の難関がお風呂だ。
この世界には、まだ「湯船に浸かる」という習慣があまりないらしい。貴族でも、お湯で体を拭くか、サウナのような蒸し風呂が一般的だそうだ。
だが、アリス嬢は「たっぷりのお湯に浸かりたい」と言った。
やはり日本人(転生者)としては、そこは妥協できない。
「川から水を引いて……ろ過装置を通して……」
竹のような植物を繋ぎ合わせてパイプラインを作り、高台まで水を引く。
そして、トマスさんから仕入れた「火の魔石」を組み込んだ給湯タンクを設置。
魔石の熱でお湯を沸かし、温度調整も可能にする。
浴槽は、香りの良いヒノキに似た木材を使用。
大人3人が余裕で入れる広さだ。
目の前には、ココノエ村ののどかな風景と、遠くの山々が広がっている。
「完成だ……! 絶景露天風呂!」
湯気と共に木の香りが漂う。完璧だ。
着工からわずか3日。
アリス嬢のための別荘が完成した。
「うそ……本当に3日で……?」
アリス嬢は完成したログハウスを見上げ、呆然としている。
だが、すぐに気を取り直して中へと駆け込んだ。
「きゃあぁぁ! 素敵! 素敵ですわ!」
中からは歓声が聞こえてくる。
そして、いよいよお風呂の時間。
(もちろん俺たちは外で待機だ)
しばらくすると、風呂場の方から「はぁぁぁ〜〜〜……」という、とろけるようなため息が聞こえてきた。
「極楽……ですわ……」
その声を聞いて、俺はガッツポーズをした。
風呂上がりのアリス嬢は、頬をピンク色に染め、湯気を立たせてリビングに戻ってきた。
用意しておいたコーヒー牛乳(風の飲み物)を腰に手を当てて飲み干す。
「ぷはっ! ……最高ですわ」
彼女は俺の方を見て、潤んだ瞳で言った。
「ケンタ、貴方は天才ですわ。もう決めました。私、ずっとここに住みます」
「えっ」
「お父様には事後報告でいいですわよね。隊長、荷物を運んでらっしゃい!」
「ええええぇぇぇ!?」
騎士隊長の悲鳴がこだまする。
さらに、隊長はこっそり俺の耳元で囁いた。
「あ、あの……ケンタ殿。もしよろしければ、我々の詰め所にも、あのお風呂を……」
どうやら、騎士たちもこの快適さに魅了されてしまったようだ。
こうして、ココノエ村に領主の娘が住み着くことになり、村はますます賑やか(騒がしく)なっていくのだった。




