第2章:歓迎と村の困りごと
「ここが私の住んでるココノエ村だよ!」
リコの案内で森を抜けると、のどかな田園風景が広がっていた。
畑仕事をしている村人たちが、こちらに気づいて手を振ってくる。
「おーい、リコちゃん! おかえり!」
「今日は早いな。……ん? その荷車、どうしたんだ?」
村の入り口に差し掛かると、数人の村人が集まってきた。
彼らの視線は、俺ではなく、リコが引いている荷車に釘付けになっていた。
「おいおい、その荷車……新品じゃねぇか?」
「朝出かける時は、車輪がガタガタで今にも壊れそうだったのに」
村人たちの反応に、リコはえっへんと胸を張る。
「すごいでしょ! このケンタさんが直してくれたの!」
「直した……? これがか?」
村人の一人が、恐る恐る荷車の車輪に触れる。
滑らかに磨かれた木肌、完璧な円を描く車輪、そしてガタつき一つない接合部。
どう見ても、熟練の職人が最高級の木材で作った逸品にしか見えない。
「あんちゃん、一体どうやったんだ? 魔法使いか?」
「いえ、ただのDIY好きです」
「ディー……なんだって?」
村人たちは首を傾げている。
まあ、説明しても分からないだろう。俺は曖昧に笑って誤魔化した。
「さあさあ、ケンタさん! こっちこっち!」
リコに手を引かれ、村の中央にある大きな建物へ。
看板には『満腹亭』と書かれている。ここが彼女の実家らしい。
「ただいまー! お父ちゃん、お客さん連れてきたよ!」
「おう、おかえりリコ。……ん? 誰だその優男は」
厨房から出てきたのは、熊のような巨漢の男だった。
腕組みをして俺を睨みつける視線は鋭い。
「お父ちゃん! 失礼なこと言わないでよ。この人はケンタさん。壊れた荷車を直してくれた恩人なんだから!」
「荷車を? ……ほう」
リコの父親――店主のガンテツさんは、外に置いてある荷車を一瞥し、目を見開いた。
そして、俺の方に向き直り、ガシッと両手で俺の手を握りしめた。
「すまねぇ! 娘が世話になったな! 俺はガンテツだ。見ての通り、この店の主人をやってる」
「あ、いえ。佐藤健太です。困った時はお互い様ですから」
「いい目をしてやがる。気に入った! リコ、今日は特盛だ! ケンタさんにご馳走してやれ!」
「はーい!」
出されたのは、猪肉のステーキと山盛りのパン、そして野菜スープ。
味付けはシンプルだが、素材の味が濃厚で驚くほど美味い。
俺は夢中で平らげた。
食後のコーヒー(のような木の実の煮出し汁)を飲んで一息ついていると、店のドアが勢いよく開いた。
「大変だガンテツ! 村長が呼んでる!」
飛び込んできたのは、顔色の悪い村の若者だった。
「どうした? 魔物でも出たか?」
「いや、井戸だ! 広場の井戸ポンプが壊れちまった! 水が出ねぇんだよ!」
「なんだと!?」
ガンテツさんが立ち上がる。
この村にとって、広場の井戸は生命線だ。それが使えないとなると一大事である。
「鍛冶屋の親父は隣町まで仕入れに行ってるし……どうすりゃいいんだ」
店内が重い空気に包まれる。
俺はカップを置き、立ち上がった。
「あの、見に行ってみてもいいですか?」
広場には、人だかりができていた。
中心には、古びた手押しポンプ式の井戸がある。
村長らしき老人が、困り果てた顔でポンプのハンドルを握っていた。
「ダメじゃ……スカスカで手応えがない。中の弁がイカれたか」
「ちょっと見せてもらえますか?」
俺は人垣をかき分けて前に出た。
リコとガンテツさんも付いてくる。
「あんたは……さっきのリコの連れか?」
「はい。少し構造を見させてください」
俺はポンプに手を触れ、スキル【DIY】を発動させた。
(解析……内部構造スキャン……)
脳内にポンプの断面図が浮かび上がる。
原因はすぐに分かった。ピストンの役割をしている革製のパッキンが劣化してボロボロになり、隙間ができているのだ。
それに、シリンダー内部も錆びついて動きが悪くなっている。
「直せますよ」
「本当か!? でも、部品なんてないぞ?」
「大丈夫です。そこに落ちている革靴の切れ端と、少しの鉄クズがあれば」
俺は近くに落ちていたゴミ同然の素材を拾い上げた。
そして、イメージする。
摩耗しない強化ゴムのような弾力性を持つパッキン。錆びないステンレスのようなシリンダー。
「【DIY】――修復・強化!」
カッ! と光が溢れる。
村人たちが「うおっ!?」と声を上げて後ずさる。
光が収まると、井戸のポンプは新品のようにピカピカに輝いていた。
俺はハンドルを握り、軽く上下させる。
キコ、キコ、ジャーーーッ!!
勢いよく、冷たい水が吹き出した。
「で、出たぁぁぁーーっ!!」
「すげぇ! 一瞬で直しちまったぞ!」
「しかも前より水の勢いがいいぞ!」
村人たちが歓声を上げ、俺を取り囲む。
村長が震える手で俺の手を握った。
「ありがとう……! あんたは村の救世主じゃ!」
「いや、そんな大げさな……」
「ケンタさん! すごいすごい!」
リコが抱きついてくる。ガンテツさんもニカッと笑って親指を立てた。
こうして俺は、ココノエ村で「凄腕の職人」として歓迎されることになったのだった。




