第12章:鉄血宰相と逆転の一手
トマスさんの案内で、俺たちは王都の一等地にある宰相屋敷を訪れた。
通されたのは、重厚な空気が漂う執務室。
「……貴様らが、トマスの言っていた職人か」
書類の山に埋もれるようにして座っていたのは、鋭い眼光の老人だった。
「鉄血宰相」の異名を持つ、この国の実質的な支配者だ。
「時間は取らせん。私の眼鏡に敵うものでなければ、即座に帰ってもらう」
ピリピリとした緊張感。アリス嬢ですら少し震えている。
俺は深呼吸をして、持ち込んだ「それ」の布を取った。
「こちらをお使いください」
現れたのは、一見するとただの高級な木製デスクだ。
「ふん、ただの机か」
「いいえ。宰相閣下、最近腰痛にお悩みではありませんか?」
「……なぜそれを」
「このデスクは、天板の高さを自由に調整できます。立って仕事をすることも可能です」
俺がレバーを操作すると、スムーズに天板が昇降する。
宰相の目が少し見開かれた。
「さらに、椅子には魔石駆動のマッサージ機能を内蔵しております」
宰相がおずおずと座る。スイッチオン。
「おぉ……! こ、これは……ツボに入ってくる……!」
「極めつけは、この隠し収納です。重要書類もワンタッチで隠せます」
「素晴らしい……! これなら、あの忌々しい会議のストレスも軽減できる!」
宰相の厳格な表情が、見る見るうちに崩れていく。
トマスさんが横で親指を立てた。勝った。
完全にリラックスモードに入った宰相に、アリス嬢が切り出した。
「閣下、実はこの技術を持つココノエ村が、隣領のガラム男爵に狙われているのです」
「ガラムだと? あの強欲な小者か」
宰相は眉をひそめた。
「そのような有能な技術者を、私利私欲で潰させるわけにはいかん。国家的な損失だ」
彼はサラサラと羊皮紙に何かを書き、王家の紋章印を押した。
「ココノエ村を『王家直轄・技術開発特区』に指定する。これを持っていけ」
「は、はい! ありがとうございます!」
それは、一地方貴族が手出しできるレベルを超えた、最強の護符だった。
俺たちが急いで村に戻ると、事態は緊迫していた。
村の周囲を、ガラム男爵率いる数百の兵が包囲していたのだ。
「抵抗はやめろ! 村を明け渡せば命だけは助けてやる!」
男爵が拡声魔法で叫んでいる。
要塞の壁の上では、ガルドさんたちが必死に耐えていた。
「待ちなさい!!」
アリス嬢の声が響き渡る。
俺たちは馬車で敵陣の真ん中を突っ切り、村の入り口に立った。
「アリス! 戻ってきたか。観念して……」
「控えなさい! これが見えなくて!?」
アリス嬢が高々と掲げたのは、王家の紋章が輝く勅命書だ。
「このココノエ村は、本日より『王家直轄・技術開発特区』となりました! この村への攻撃は、王家への反逆とみなします!」
「な、なんだとぉぉぉ!?」
男爵が素っ頓狂な声を上げる。
兵士たちも「王家直轄だって?」「手出ししたら処刑だぞ」とざわめき出し、武器を下ろしていく。
「そ、そんな馬鹿な……! 俺の計画が……!」
男爵は顔面蒼白になり、わなわなと震えた後、馬を返して逃げ出した。
「撤退だ! 撤退ぃぃぃ!」
蜘蛛の子を散らすように去っていく敵軍。
村に、割れんばかりの歓声が上がった。
「やったー! ケンタさんたちがやってくれたぞ!」
俺はへなへなとその場に座り込んだ。
リコが駆け寄ってきて、俺に抱きつく。
「おかえりなさい! ケンタさん!」
「ただいま、リコ」
こうして、ココノエ村は名実ともに「最強の領地」への第一歩を踏み出したのだった。




