表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋が終わるまで  作者: 生ハム
高一編
6/43

ベース

「それでさ、結局、内田くんとは一言も喋れなかったの」


次の日の昼休み。食堂の隅っこのテーブルで、私は昨日の初めての部活の話を真美とあやかにしていた。


「えー、もったいな!」

真美が大げさに声をあげる。


「だって、男子同士ですぐバンド組んで、帰っちゃったんだもん」

「まぁ、最初は仕方ないよ」

あやかは冷静にフォローしてくれる。


「それより、楽器はどうするの?」

「うん…ベース担当になったんだけど、持ってないから買わなきゃいけなくて」

「え!ベース!?ギターやるって言ってなかったっけ?」

真美が驚いた顔をする。


「うん…でも、ギター経験者の子がいたから、譲ったんだ」

「郁奈らしいね〜。ベース持ってるの?楽器って高いんじゃないの?」

「それが、持ってなくて…どうしようかな」


すると、あやかが少し考え込んだあと、思い出したように言った。


「そういえば、バレー部の先輩が、ベース持ってるけど今使ってないって言ってた気がする。譲ってもらえるか今日の部活で聞いてみようか?」


「え、ほんとに!?いいの?」

「うん」

「やったじゃん郁奈!これでベーシスト決定だね!」

真美は大げさに拍手してくれた。


------


翌日の放課後。

話はトントン拍子に進み、無事にベースを譲ってもらうことになった私は、体育館前のピロティに来ていた。


まだどの部活も始まっていないようで、体操着やユニフォームの生徒が、各々ストレッチや準備をしていた。


「おーい!こっちこっち」

あやかに呼ばれて目を向けると、あやかの隣には、大きなベースケースを持った男の人が立っていた。


「あやか!あ、あの、柏木です!」

知らない人にはまず自己紹介。私はその男性に向かって、深くお辞儀をした。


「君が柏木ちゃんだね。はいこれ」

男性はそういうと、ベースケースを私に手渡した。


「もらってくれて嬉しいよ。僕が持っててもどうせ使わないからね」

「本当にいいんですか…?何かお礼を…」

「気にしないで。どうせ眠らせておくより、使ってくれる人に渡したほうがいいし」


私は再び深く頭を下げた。

「ありがとうございます!大切に使います!」


その時。


「おーい、あやかー!何やってんの?」


体育館から、男子が手を振りながら声をかけてきた。


「お前は来なくていいから!シッシッ」


あやかは野良犬に言いつけるようにあしらって、すぐに私の方を向いた。


「えー?なんてー?」


あやかの声が聞こえなかったようで、こっちに近づいてくる。


「やばい、アイツこっちくるわ。先輩、早く戻りしょう!」


そう言って、あやかは先輩の手を引き、体育館館の方へ戻って行った。


(あやか、すごいな)


男女問わずあんなに分け隔てなく接するなんて、私にはできない。


そう思いながら、あやかを眺めていると、入り口前で合流した男の子があやかに小突かれていた。そして、こちらを向き、私向かって手を振った。


それを見たあやかは「やめろって」と言いながら、もう一度彼を小突いて、


「郁奈ー!早く帰りな〜!」


と、私の方へ叫んだ。


(ああいうの、苦手だな…)


私は、苦笑いであやかに小さく手を振りながら、帰路についた。


男の子って、子供っぽいし、ああいうチャラいのとは、あんまり関わりたくないなぁ。本当にあやかはすごい。


(それに比べて、内田くんは、落ち着いてて大人っぽいな)


そんなことを考えながら、ベースを背負って自転車に跨った。


少し伏し目がちで落ち着いた姿を思い出す。胸の奥がまた少し熱くなった。


最近はすっかり暖かくなった風が、頬をかすめていく。

早く帰って練習しよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ