入部
「俺、やっぱり軽音部入るよ」
仁は、突然言った。
「え?本当に?」
私は咄嗟に聞き返したが、薄々そんな気がしていた。
渉とのバンドの一件があった後、仁は以前より楽器に興味を示すようになった。
しばらく、私のベースを弾かせてあげたり、教えてあげたりしていたが、この間、ついに自分のベースを買ったと聞いていたからだ。
真っ赤なそのエレキベースは、仁の明るい性格と、大きな手にぴったりに見えた。
「うん。あやかがボーカルやってみたいって言ってたし、一緒に軽音部入って、他校生とバンドやるんだ」
嬉しそうにそう言う仁。
他校生のいるバンドは、文化祭には出られないので、そういうバンドは普通、一般のライブイベントに参加する。
「そうなんだ。頑張ってね。ライブするなら見に行くよ」
私はそう答えた。
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それからたまに、仁が部活に顔を出すようになったが、正直私は、少しだけ居心地が悪かった。
茉莉と仁は、クラスメイトということもあり、すぐに馴染んだようにも見えたけど、私にとって、部室に彼がいるのは、なんというか、知らない人が家にいるみたいな気分だった。
あまり、彼氏に対して抱いていいとは思えない感情を誰にも言えなかった。
(私が、内田くんとバンドなんかしようとしたから…)
仁のバンドのライブ日程が決まると、私は電話越しに、彼の奏でるベースラインを聴きながら、なんだか複雑な気分になっていた。