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初恋が終わるまで  作者: 生ハム
高二編
36/43

何度目

放課後。

楽譜を渡すために渉の教室へ向かう途中、私は足を止めた。


(……あれ?)


廊下の先に、渉と瑠夏が並んで立っている。

2人は親しげに話していて、私の存在にはまだ気づいていなかった。


胸がぎゅっと縮んで、手に持った楽譜が急に重くなる。

指先の感覚が遠のいていく。


(なんで……瑠夏ちゃんと?)


勇気を振り絞って声をかける。


「内田くん!」


2人が同時に振り向いた。

私は瑠夏に向かって軽く手を振ると、彼女も振り返した。


自然を装いながら、渉に近づいて楽譜を差し出した。


「これ、約束のやつ!」


「ありがとう。コピーしたら返すね」


渉はいつものように穏やかに受け取る。


「じゃあ、またね」


私はそれ以上何も言わずに背を向けた。


その直後、背後から瑠夏の声が追いかけてくる。


「何の曲やるの?」


渉が答える声が、私の耳にだけ遠く響いた。

2人の距離が、私よりずっと近い気がして、なんだか悲しくなる。


仁を選んだのは自分だ。なのに、瑠夏といる渉を素直に受け入れられない。こんなの、仁にも渉にも誠実じゃないことは分かっていた。ダメだと分かっているのに、自分ではどうすることもできない。


私は、どこか遠くへ逃げ出したい気分だった。


------


バンドの話は順調に進むと思っていた。

けれど現実はそう甘くなかった。


「とりあえず、各自で練習してから集まろう」

最初はそう決めた。


けれど一向に予定が合わない。特に渉の都合が。

スタジオを借りようとしても、日程調整はことごとく流れてしまった。


部室のドラムは電子セットだし、そもそも普段部活に出ていない渉やその友達が使える雰囲気じゃない。


(どうすればいいんだろう……)


そんな不安を抱えていたある日の夜。

渉からメッセージが届いた。


『ごめん。やっぱり色々忙しくて、バンドできない』


画面を見つめたまま、呼吸が止まる。

指が震えて、返事を打つことさえできなかった。


後でドラムの子からも連絡が来た。


『まあ仕方ないよね。またいつかやろう』


(またいつか……)


でも、「またいつか」なんて来ない気がした。


私はただ「うん」と合わせるしかなかった。


------


ベッドに横になりながら、胸の奥に重いものを抱えたまま思う。


(内田くんとは、何をやっても上手くいかないんだ……)


仁に悪いと思いながらも、渉に声をかけてしまった。


その結果がこれ。


(きっとバチが当たったんだ……)


目を閉じても、渉と瑠夏が並んで立っていたあの光景が蘇る。

息苦しくて、枕に顔を埋めるしかなかった。


後日、渉に貸した譜面は、真美を通して帰ってきた。

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