嫉妬
「内田くんとバンドすることになって…」
私は小さな声で言った。
「え?」と聞き返す仁。
「文化祭のバンド足りなくて、部長に普段部活来てない部員に声かけてって言われて」
事実。事実だからそう伝えた。
「なんで?」
(さっき言ったじゃん…)
「え?だから、バンドが足りなくて」
いや、そうじゃなくて、と言いたそうな顔。
「なんで内田と郁奈がバンド組まなきゃなんないわけ?」
(だから、さっき言ったのに)
「だから、バンド足りなくて、内田くんのバンド解散したから、内田くんの友達と3人で文化祭に出るの」
何回も同じこと聞かれて、少し語気が強くなる。
「どうして内田なの?内田じゃなきゃダメなの?他の部員は?」
(なんか怒ってる…)
今まで見たことのないような表情をする仁。
「他の部員と接点ないし、茉莉も知ってる人には何人か声かけてくれてるの」
「じゃあ、その大久保の知り合いと内田とでやればいいじゃん」
「その人たちは内田くんと別のバンドだし、担当楽器の兼ね合いとかあるから、急に1人だけ入れてもらうとかできないよ」
渉に嫉妬してるんだと思った。
でも、部活だし友達だから、別にいいじゃん。私は仁の彼女なんだから、それでいいんじゃないの?
「そんなの…じゃあさ、俺もそのバンド入れてよ」
突拍子もないことを言い出すので、私も混乱した。
「え?何言ってるの?仁、楽器やってないし、軽音部じゃないじゃん」
「俺も軽音入るよ。まだ文化祭まで十分時間あるから、楽器も練習すればいいし、前からやってみたかったから」
「それなら、バレー部はどうするの?」
「休みの日とか軽音部の方にいけるし、家で練習すれば、いいでしょ?」
無理がある。そもそも、私と内田くんが一緒にいるのが嫌だからって、そんなことしたら、みんなびっくりする。
だって、みんな私が渉のことを好きだったことも、それを知ってて仁が私と付き合ってることも知ってる。
(それはちょっと、気まずすぎる…)
「本当に、何言ってるの?無理だよ。仁だって、2人と面識ないでしょ?演奏する曲も、もうスリーピースで決まったんだから…」
私がそう言うと、仁は黙り込んでしまった。
正直、ここまでの反応をされると思っていなかった。いつもみたいに許してくれると思っていた。仁に悪いことをしていると分かっていたけど、渉と友達として付き合っていくのは、別にいいんじゃないかと思っていた。
たとえ、私がまだ渉のことを好きだったとしても。
(ただの友達だから…)
渉は私のことなんか何とも思ってないんじゃ、どうしようもない。その先なんかないも同然だった。
そうやって自分に言い訳をしていると、仁が口を開く。
「ごめん。ちょっとびっくりしたから…」
私が悪いのに、謝られて申し訳なくなった。
「ううん、私こそごめん。勝手に決めちゃって」
仁が顔を上げる。
「ひとつ聞いてもいい?」
「なに?」
「郁奈はもう、内田のことは何とも思ってないんだよね?」
そう聞かれて、心臓が跳ねる。
「…うん。ただの友達だよ」
嘘をつくしかなかった。
仁がじっと私を見つめる。
「わかった。じゃあ、さっきの話はナシで。文化祭頑張ってね。俺、見に行くよ」
そう言って、いつもの穏やかな笑顔を見せる。
「うん。ありがとう。頑張るね」
私がそう言うと、仁はいつものように私を抱きしめる。
私は、自分の気持ちをどうすればいいのか分からなかった。