幽霊部員
2年生としての学校生活にも慣れてきたころ。
「柏木さん!助けてくれ!」
そう言って、部長が私の前に書類を広げる。
「え、なんですか?」
私は訳が分からず聞くと
「文化祭、出場バンドが少なすぎて困ってるんだよ!」
そう言って、部長が差し出した書類には『部員名簿』と書かれていた。
「あ、なるほど…」
今年の軽音部の新入生は、7人2バンド。2年生は私たち3人の1バンド。先輩たちは3人で1バンド。合計で4バンドだ。
文化祭は、金曜日と土曜日の2日間。金曜日は、他校生は来場禁止だけど、土曜日については、保護者その他不特定多数の人がやってくる。
体育館ステージは、他の部活で枠が埋まっているため、軽音部は空き教室を借りて、部員が順番に演奏をする予定だった。
すなわち、2 daysライブフェス!
これを、持ち曲の少ない素人高校生の4バンドで回すのは無理があった。
「この幽霊部員たちを、どうにか文化祭に引き連れてきて欲しいんだ…!」
(そう言われても…)
私は書類には目を落とす。
(あ、内田くん…)
そこには渉の名前があった。
(まだ、籍置いてるんだ)
「うーん…私が声かけられそうな人はかけてみます」
「本当に?ありがとう!」
部長はそう言って嬉しそうにしている。
私はその夜、久しぶりに渉に連絡してみた。
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『内田くん、久しぶり!あのさ、内田くんのバンドってまだ活動してるの?軽音部の文化祭、バンド足りてなくて…』
すると、しばらくして渉から返事が来る。
前々から、こういう業務連絡は割と返事が早かった。
『久しぶり。バンドはもうしてないかな。でも、文化祭でライブっていいね』
私は、渉のバンドがもう活動してない事実に、少し残念だったが、文化祭ライブには興味があるようだ。
『そうなんだ、残念…他の人と組むとかは、考えてないの?』
『組んでたバンドでドラムだったヤツが、他校生とバンド組んでるから、呼んだらくるかも。でも、ギターとドラムだけじゃバンド組めないし…』
そう言われて私は期待で胸が熱くなった。
『じゃあさ、私がベースやるから、一緒に文化祭出ようよ!』
断られるかも、と思いながらも返事を待つ。
なんだかスマホを持つ手が震える。
しばらくしてから通知音が鳴り、画面には
『ほんとに?柏木さんがいいならぜひ』
と、渉からのメッセージが表示されていた。
(…!)
私は思わずスマホをベッドに放りやる。
(内田くんと…バンドができる…!)
私は嬉しくてたまらなくて、その場で飛び跳ねそうだった。
(…でも)
文化祭に出るということは、私が黙っていたとしても確実に仁の耳に入るだろう。
(ちゃんと言わなきゃな…)