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初恋が終わるまで  作者: 生ハム
高二編
32/43

おとな

ある日の下校中、私は意外な光景を目にした。

あやかが、男性と並んで歩いているのだ。


(え!あやか?誰といるの?)


そう思いながら、男性をよく見ると


(松坂先輩だ!)


松坂豊さん。去年の4月に、私にベースを譲ってくれた、バレー部の先輩だった。


しかも、あやかの家は逆方向なはずなのに。


(付き合ってるのかな?)


私はそう思ったが、あやかからは彼氏はおろか、好きな人の話すら聞いたことがなかった。


(私たちに隠してる…?)


なぜ隠すのか、私はわからなかった。あやかとは、真美と3人の仲良しだと思ってたからだ。


私は何となく、今は声をかけてはいけないと思い。回り道をして帰宅した。


------


数日後。

私は、行きつけのファミレスにて、真美、あやかと3人でいつものように恋バナをしていた。


「なんか最近、駿と上手くいってなくて…」


と俯いて言う真美。


私は驚いて「喧嘩でもしたの?」と尋ねると、真美は柄にもなく、小声で


「実は、ちょっと前にエッチの話になって…」


「エッ…!」


私はそこで言葉が詰まり、固まった。そんな私を横目で見ながら、「それで?」と聞き返すあやか。


「その時は、急に言われて心の準備もできてなかったから、断ったんだけど…それからちょっと気まずくて」


「うーん」と唸っているあやかを見て、私も悩んでいるフリをした。


(ちょっと、よくわからないけど…真美がピンチ…?)


「そんなのさ、仕方ないじゃん。真美は嫌なのか?」

「嫌…ではないけど、なんかもっと、段階があるというか…」

「ABC的なね」

「うん」


(ABCって何だ?)


「それ、もう一度、ちゃんと駿くんと話し合った方がいいよ。Cがダメでも、Bなら大丈夫とか」


「ねぇ、それ、何?」


話に置いていかれないように、質問した私を2人が見つめている。


(あ、なんかまずかったかも…)


そう思っていると、あやかが目招きをし、私の耳元で「恋のABC」について教えてくれた。


------


ABCについての説明がひと段落したところで、真美があやかに質問した。


「あやかは、経験あるの?」


私もあやかを見る。


「いや、まあ…」


あやかは、目を逸らして言った。

それを聞いてすかさず真美が、


「え!誰!彼氏!彼氏できたの!?」


興味津々だった。

私は、この間のことを思い出す。


(松坂先輩かな…)


そう思ったが、あやかの返答は違った。


「違う違う!中学の時の彼氏だよ!今は彼氏いないし!」


(付き合ってないんだ)


何だか、ちょっとだけ残念だった。


(そういえば…松坂先輩ってあやかと同じ中学じゃなかったっけ?)


そう思ったが、何となく聞くのをやめた。


------


後日、あやかと先輩のことが気になって、仁に尋ねてみた。


「松坂先輩ってさ、あやかと同じ中学だったんだよね?仲良いのかな?」


それを聞いた仁は、少し渋い顔をした。


「ちょっと前に、あやかが松坂先輩に告白して、フラれたらしいよ。一年の終わりくらいかな〜」


(じゃあ、どうして2人は一緒にいたの?)


「へ、へぇ〜。そうなんだ。でも、この前帰り道で松坂先輩見かけたんだけど、先輩、家あっちの方なの?あやかの中学校の校区じゃないよね?」


「あー、先輩、高校入る時に引っ越したらしいよ」


「そ、そうなんだ」


郁奈の胸はざわめいた。

学校終わり、松坂先輩の家の方角に2人で。


(付き合っていないのに?)


私は確信が持てないながらも「大人な恋愛」だと感じていた。


------


「で、それがどうかしたの?」


仁に聞かれて、慌てて誤魔化そうとする。


「い、いや、ちょっと気になっただけ!」


そんな私を見て「そっか」と返事をする仁。


(大人な関係…)


私はちらりと仁の顔を見る。


『断ったんだけど、ちょっと気まずくて…』


真美の言葉を思い出す。

すると、そんな私に気付いた仁が「どうしたの?」と覗き込んできた。


仁はいつも、こういう顔で私を見つめる。

私のことが愛しくてたまらないような、優しい目。自分で言うのもなんだけど、私にも伝わってくるぐらい。


(仁なら許してくれるかも…)


そう思った私は口を開く。


「あのね…キスより先のことって、仁は考えたりするの?」


突然の問いに、仁は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに真剣な顔になる。


「それは…するけど。郁奈はどうなの?」


逆に聞かれて、少し戸惑う。


「私は…よく分からない…」


そうとしか言えなかった。


「じゃあさ、郁奈が準備できるまで、俺は待つよ。そういうことが目的で、一緒にいるわけじゃないからね」


仁はそう言って、いつものように優しく笑う。


「…ありがとう」


俯きながら私が答えると、仁は私の手を握って言った。


「じゃあさ、こういうのはどうかな?目、瞑って」


そう言われて目を瞑る。


「嫌だったら教えてね」


仁はそう呟く。


私たちは、いつもより少し大人なキスをした。


(相手が渉なら…)


私はまた、そんなことを考えていた。


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