修学旅行
3月の初め、待ちに待った修学旅行の日がやってきた。普通の高校なら、修学旅行に行くのは2年になってからなのだろうが、2年生の3学期は、3年生0学期だか何だかで修学旅行に行けないらしい。
出発当日の朝は、友達同士で旅行の荷物や服装について話題が弾む。私は少し緊張しながらも、胸の奥は期待でいっぱいだった。
クラスごとに分かれてバスへ向かう。長野でのスキーは、クラスで別々のコースになっていた。
バスが停まると、遠くから手を振る人の姿が見えた。
(仁だ!)
私も手を振り返す。彼は笑顔で近づいてきて、「雪綺麗だね」と言うと、すぐに自分のクラスの列に戻って行った。
仁はいつもこんな感じで、隙あらば声をかけてくれる。
仁の背中を眺めていると、5組のバスから降りてくる渉の姿も見えた。
------
スキーは初めてだったけど、結構楽しかった。みんなそれぞれ同じウェアを着ていて、男子が青いニット帽、女子が赤いニット帽。個人を識別するために、大きなゼッケンをつけていた。
(渉は…)
『105』
つい覚えてしまう。
(見てるだけ…見てるだけ…)
そうい言い聞かせていた。
------
夜になり、宿泊施設の大ホールで一年生全員で夕食を取った。クラスごとに決まった場所に座るので、私は真美とあやかの隣だ。
ふと6組に目をやると、あの綺麗なロングヘアが目に入る。
(瑠夏ちゃんだ…)
お風呂上がりだったので、いかにもいい匂いがしそうだった。
普段はコンタクトをつけているのか、今はメガネをかけている。メガネ姿も綺麗だった。
------
夕食後、仁が「せっかくだから、ちょっと話そうよ」と声をかけてきた。
ロビーに出ると、人影はまばらで、先生の目も届きにくい場所を選んで歩く。
「こんなところで話すのも変だね」
私が笑うと、仁も肩を揺らして笑った。
「うん……なんか、こういうの、ちょっとドキドキするね」
ふと、先生たちの声が近づいてくる。
「やばい、見つかったら怒られるかも!」
二人で急いで隅の薄暗いスペースに隠れることにした。狭くて暗い場所に身を潜め、肩を寄せ合って息をひそめる。
しばらくすると、思わず笑いがこぼれた。
「……なんか、おかしい」
「うん、でも、楽しい」
小さな声で笑い合いながら、私たちは今この瞬間を噛みしめていた。
------
結局、先生に見つかり、私たちはそれぞれの部屋に戻ることになった。
部屋に戻ると早速
『さっきはありがとう。おやすみ』
と仁からメッセージが入った。
「なーにぃ〜?彼氏ですかぁ〜?せっかく私たちとの素敵な夜なのに〜」
同じ部屋の真美が言う。
「もう!勝手に見ないで!」
そんな私たちを見て、あやかも笑う。
こうして、1年生最後の大イベント修学旅行を終え、私たちは2年生になった。