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初恋が終わるまで  作者: 生ハム
高一編
27/43

チョコレート

3学期に入って、冬の空気がまだ肌に刺さるような朝。


あれから変わらず、郁奈の毎日は、仁との穏やかな時間に彩られていた。

一緒に下校したり、休日は出かけたりした。


クリスマスも、いつものように家に遊びに来てくれた仁と2人で、私が作ったケーキを食べたり、ちょっとした文房具なんかのプレゼント交換をしたりした。仁の喜んだ顔を思い出すと私も自然と笑顔になった。


でもーー心は満たされていたはずなのに、ふとした瞬間に脳裏をよぎるのは渉の姿だった。


(そういえば……もうすぐ内田くんの誕生日だ)


頭に浮かんだ瞬間、胸の奥がざわつく。

「普通に、友達だし」と心の中で言い訳しながら、真美に少しだけ話をしてみた。


「ねえ、内田くんって来週誕生日だよね。今週末、バレンタインの買い物行く時に、ついでにお菓子とか買ってあげない?」


「いいじゃん。私もうっちーに何かあげよ〜!」


こうして渉の誕生日の当日、真美と2人で誕生プレゼントのお菓子を渡すことになった。


------


「これ、美味しそうじゃない?」


真美が指差す。

ちょうど2月に入ったばかりで、お菓子売り場には、綺麗に包装されたチョコレートが並んでいた。


「自分用に買おっと!」


そういう真美が持つ買い物カゴには、駿に渡す手作りチョコレートの材料が入っていた。


「また太るよ〜」


私は笑いながらそう言う。


(バレンタインデー、だもんね…)


「私も仁には市販じゃなくて、何か作って渡そうかな!」


私はそう言いながら、調理用のチョコレートを手に取る。


(内田くんには…)


手作りなんて渡せない。だって、私は仁の彼女なんだから。


そう思い、パーティーパックのお菓子に目をやった。


(クラスの男子みんなにあげる義理チョコ。そうだよ。義理チョコ義理チョコ)


結局私は、そのパーティーパックの一口チョコレートを購入した。


裏にメッセージを書くスペースがあるその袋のひとつに「誕生日おめでとう」と書き込んだ。


------


ところが、誕生日当日、


「……あれ、今日うっちーいなくない?」


そういえば、今週に入って渉の姿を見ていなかった。


「なんか、怪しいな…」


「なにかありそう」と真美が呟いた。


------


結局いつもの通り、すぐに真美は駿から事情を聞き出してくれた。


「うっちーね……先輩にそそのかされて、バイク盗んで捕まったんだって」


「え……」


まただ。


(まだ、不良の友達と……つるんでたんだ……)


あの一件があって、もう中学の友達とは縁を切ったのかと思っていた。


そして、学校内にも、密かに噂が広まっていく。


「5組の子が警察に捕まったらしい」

「自宅謹慎だって」

「少年院に入ってるんじゃないの?」

「中学でも不良だったらしいよ」

「タバコとか吸ってるんだって」


あることないことが廊下の片隅で飛び交っていた。


さすがの真美も気まずそうに、他人が語るそんな噂を聞いていた。


------


バレンタインデー当日。

いつものように郁奈の家に遊びにきた仁に、昨日作ったチョコレートを渡す。


「うっわ!美味しそう!サンキュー!ねえ、今ひとつ食べてもいい?」


嬉しそうにはしゃぐ仁に「まだ余ってるのもあるから、食べたいならあげるよ」と言う。


勉強机の上に置いてある、渉に渡すはずだったチョコレートが目に入る。


(内田くんが、学校に帰ってきたら渡そう)


そう思いながら、チョコレートを頬張る仁を眺めていた。

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