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初恋が終わるまで  作者: 生ハム
高一編
26/43

はじめて

仁と付き合うようになってから、毎日が少しずつ変わっていった。


最初の変化は――呼び方だった。


「ねえ、もう名前で呼んでもいい?俺も仁って呼んでほしい」


付き合うことになってすぐ、そう言われた。


(仁、か……)


口に出して呼んでみると、仁が嬉しそうに笑う。


「じゃあ俺も、郁奈って呼ぶね」


それは今までより少し近くなった距離の証みたいだった。


そして、真美とあやか、それから茉莉とほのに報告した。


「えーー!ほんとに!?」

「キャー!郁奈が彼氏できたー!」


案の定、みんなは大騒ぎになった。

恥ずかしかったけれど、嬉しそうに祝福してくれるその声が、胸の奥をじんわり温めた。


仁も、私たちの関係を隠す気は全くないようで、廊下で会うと普通に話しかけてきたり、一緒に下校したりした。

だから、すぐにクラスや学年の噂として広まっていった。


(きっと……内田くんの耳にも入ってるよね)


そう思うと、少し胸がざわついた。

けれど今は、仁と向き合わなきゃいけない――そう自分に言い聞かせ、心の奥で渉のことにフタをした。


------


ある休日。仁が私の家に遊びに来ることになった。


玄関のチャイムが鳴り、ドアを開けると、仁が手土産を持って立っていた。


「お邪魔します!初めまして!塩崎仁といいます!」


一緒に迎えたおばあちゃんに、名前を名乗り、丁寧に頭を下げる仁。


持ってきた手土産をを渡されたおばあちゃんは「まあまあ、わざわざありがとうね」と、受け取りながら目を細め、「しっかりした子ね」と何度も頷いていた。


「本当におばあちゃんですか?若い!」

「すごく優しそうなおばあちゃんだね」


そう言ってくれる仁に、おばあちゃんも私も照れながら、少し誇らしくなった。


------


仁が家に来た時は、ほとんど私の部屋で過ごした。

最初はいつも通り、お喋りやゲーム。ときどき宿題や勉強をしたりもして、時間が過ぎるのはあっという間だった。


帰り際になると、仁は必ず私を優しく抱きしめてから部屋を出た。

最初は緊張して体が固まったけれど、だんだんその抱擁が心地よく感じられるようになっていった。


------


ある日。

いつものように抱きしめられたあと、仁が真剣な顔で私を見つめた。


「ねえ……キス、してもいい?」


心臓が一気に跳ね上がる。


いつかこの時がくることは、わかっていた。

でも――頭の片隅には、どうしても渉の顔が浮かんでしまう。


(ダメだ…今は仁がいるんだ)


ほんの一瞬だけ迷ったあと、小さく頷いた。


仁がそっと顔を近づけてくる。

唇が触れ合った瞬間、体が熱くなって、息が止まった。


それが、私にとって初めてのキスだった。


幸せそうな仁の顔を見ると、何だか悲しい気持ちになった。


(私のことをこんなにも思ってくれてるのに…)


渉がよかった、そう思ってしまった。仁を見送ったあと、少しだけ1人で泣いた。

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