答え
それからの日々、仁は以前よりもずっと積極的に私へ関わってくれるようになった。
「今日、一緒に帰らない?」
バレー部の部活が早く終わる日は、いつもそうやって誘ってくれる。
バス通学の仁は、私を家に送った後だと家着くのは遅くなるだろうに、そんなことはお構いなしという感じだった。
最初は戸惑いながらだったけれど、何度も誘われるうちに、私も自然と「うん」と返事をするようになっていた。
仁は話題が豊富で、部活のことや友達のこと、何気ない学校の出来事を楽しそうに話してくれる。
その合間に――
「俺、やっぱり柏木さんといると楽しい」
「笑った顔が一番かわいいな」
そんなふうに、ストレートに「好き」を伝えてくるようになった。
少し赤くなりながらも、真っすぐに言葉を届けてくれる仁に、私は次第に惹かれていった。
歩幅を合わせてくれる優しさや、ふと見せる真剣な横顔。
それらが、胸の奥にじんわりと広がっていく。
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告白から2週間が過ぎた。
相変わらず渉との関わりはほとんどなく、進展の気配もない。
(このままずっと仁くんを待たせるのは……よくないよね)
胸の中にある負い目は日に日に大きくなっていた。
それに、仁と一緒に過ごす時間は確かに心地よくて、楽しくて――私もまた、仁のことを考える時間が増えていた。
放課後、2人で並んで歩いている帰り道。
夕陽が顔を隠し、青緑色になった歩道を街灯が照らしている。私は立ち止まって小さく息を吸った。
「仁くん」
「ん?」と振り向く彼の目は、期待と少しの不安が入り混じっているように見えた。
「……私、ずっと答えを出せないままで、ごめんね」
仁は首を横に振る。
「いいよ。待つって言ったし」
その優しさにまた胸が熱くなる。
「でもね……やっぱりもう、答えを出したいの」
数秒の沈黙。心臓が痛いくらいに早く打っている。
「私も……仁くんと一緒にいたい。だから……よろしくお願いします」
言葉にした瞬間、少しだけ視界がにじむ。
仁の顔がぱっと明るくなって、強く頷いた。
「……! 本当に? ありがとう。めちゃくちゃ、嬉しい…!」
目を輝かせて、私を見つめる仁。
「すごい…嬉しい。めちゃくちゃ…」
そう言いながら拳を握りしめている。
「ねえ、ハグしてもいい?」
「え!?」
急に言われて驚いた。人目が気になった私が、あたりを見渡すと、山手の小さな住宅街なので、人通りはなくシーンとしている。
(大丈夫か…)
そう思った私は「いいよ」と返事をした。
「ありがとう!」と言い、優しく私を抱きしめる仁。私の頬に、首筋の赤いアザが重なり、温かい体温が伝わってきた。
こうして私は、仁と付き合うことになった。
(これでいいんだよね……)
心の奥にまだ渉の影があることを、自分でもわかっていた。
でも、仁のぬくもりが、それを静かに包み込んでいくように感じていた。